今回は、源泉徴収された後の所得税に焦点を当てていきます。
お給料から引かれた後、そのような所得税はどのようなプロセスを辿っていくのでしょうか。
そして、このことを理解するためには所得税徴収高計算書という書類の存在がカギになります。
所得税徴収高計算書に関連した最もよく聞かれるお悩みは、
「書き方がよく分からない」
が挙げられます。
この記事では所得税徴収高計算書について解説いたしますが、中でもその書き方について丁寧に解説いたします。
この記事をお読みになられれば、所得税徴収高計算書の処理も怖くありません。
それではまず始めに、所得税徴収高計算書とは一体どのような書類なのか、ということから見ていきましょう。
所得税徴収高計算書とは?
所得税徴収高計算書の概要
会社などの事業所が、従業員から徴収した所得税を納める際に用いる書類が所得税徴収高計算書です。
注意していただきたいのは、所得税徴収高計算書は国税庁のホームページに載せられていますが、それを印刷するなどして手続きにそのまま用いることはできません。
所得税徴収高計算書は税務署の窓口に置いてあるので、実際にそこに赴いて手に入れる必要があります。
また、事業所に直接郵送してもらうことも可能なので郵送をお願いして手配することもできます。
そして、一口に所得税徴収高計算書といっても徴収対象となる所得の種類によって9種類に分類されています。
したがって、次にこの9種類の所得税徴収高計算書についてそれぞれどのような時に使うのか、内容を確認してみることにしましょう。
9種類ある所得税徴収高計算書の紹介
所得税徴収高計算書は徴収対象となる所得によって9種類に分割されています。
具体的な9種類の所得税徴収高計算書については以下になります。
- 給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書
- 利子等の所得税徴収高計算書
- 定期積金の給与補てん等の所得税徴収高計算書
- 配当等の所得税徴収高計算書
- 上場株式等の源泉徴収選択口座内調整所得金額及び源泉徴収選択口座内配当等・未成年者口座等において契約不履行等事由が生じた場合の所得税徴収高計算書
- 報酬・料金等の所得税徴収高計算書
- 非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書
- 割引債の償還金に係る差益金額の所得税徴収高計算書
- 償還差益の所得税徴収高計算書
それぞれの書類について、どのような時に用いればよいのか、に注意しながら簡単に見ていきましょう。
給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書
給与や退職手当、税理士・弁護士・司法書士などの報酬について源泉徴収をした所得税等を納付するときに使用します。
利子等の所得税徴収高計算書
利子等、配当等のうち投資信託の収益の分配若しくは特定受益証券発行信託の収益の分配又は匿名組合契約等に基づく利益の分配について源泉徴収をした所得税等を納付するときに使用します。
定期積金の給付補てん等の所得税徴収高計算書
給付補てん金、利息、利益若しくは差益又は懸賞金付預貯金等の懸賞金等について源泉徴収をした所得税等を納付するときに使用します。
配当等の所得税徴収高計算書
配当等について源泉徴収をした所得税等を納付するときに使用します。
※この場合の配当等は上記の利子等の所得税徴収高計算書で該当しなかったものを指します。
上場株式等の源泉徴収選択口座内調整所得金額及び源泉徴収選択口座内配当等・未成年者口座等において契約不履行等事由が生じた場合の所得税徴収高計算書
租税特別措置法第 37 条の 11 の4第1項に規定する、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡、若しくは源泉徴収選択口座において処理された上場株式等の信用取引等に係る差金決済により生じた源泉徴収選択口座内調整所得金額、及び租税特別措置法第 37 条の 11 の6第 1 項に規定する源泉徴収選択口座内配当等の額、又は未成年者口座等において契約不履行等事由が生じた場合の上場株式等の譲渡所得等の金額及び配当所得の金額について源泉徴収をした所得税等を納付するときに使用します。
報酬・料金等の所得税徴収高計算書
報酬・料金(弁護士、税理士、司法書士等の報酬を除きます。)、契約金、賞金、公的年金等又は生命・損害保険契約等に基づく年金について源泉徴収をした所得税等を納付するときに使用します。
非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書
非居住者や外国法人の所得について源泉徴収をした所得税等を納付するときに使用します。
割引債の償還金に係る差益金額の所得税徴収高計算書
個人又は内国法人若しくは外国法人に支払い又は交付する租税特別措置法第 41 条の 12 の2第2項に規定する割引債の償還金、同条第3項に規定する特定割引債の償還金、又は同条第4項に規定する国外割引債の償還金について源泉徴収をした所得税等を納付するときに使用します。
償還差益の所得税徴収高計算書
租税特別措置法第 41 条の 12 第7項に規定する割引債の償還差益について源泉徴収をした所得税等を納付するときに使用します。
このように、どのような所得に対して源泉徴収をしたのかで用いる所得税徴収高計算書は変わります。
書き方についてのご相談の中で、これらの所得税徴収高計算書の内容を混同してしまっている方も中にはいらっしゃいます。
例えば以下のようなケースです。
例:デザイナーに対する報酬は給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書の「俸給・給料等」欄に書いて良いか。
→答えは、書いてはいけません。そもそも、デザインの報酬に用いる所得税徴収高計算書は、報酬・料金等の所得税徴収高計算書です。
所得税徴収高計算書を作成する際にはこのようなことに、改めて意識的になっていただければと思います。
以上、所得税徴収高計算書について大まかに説明いたしました。
次に、所得税徴収高計算書というトピックにおいて最も重要である「書き方」についてご説明いたします。
所得税徴収高計算書の書き方
ここでは、所得税徴収高計算書の書き方についてご説明いたします。
上でも触れたように、所得税徴収高計算書は9種類存在します。
ここではその中でもよく用いられると思われる、
・給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書
の書類にスポットを当てて、丁寧にご説明いたします。
給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書
給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書は、従業員に対してお給料や退職金を支払った際、または税理士や弁護士などに報酬を支払った際に源泉徴収をした所得税等を納めるときに用いる書類です。
ここで、実は給与所得・退職所得等の源泉徴収高計算書は2種類存在します。
以下の場合に応じて、用いる所得税徴収高計算書が異なります。
- 納期の特例を受けていない → 一般用の所得税徴収高計算書
- 納期の特例を受けている → 納期特例分の所得税徴収高計算書
※納期の特例を受ける条件・・・給与支払い人数が10人未満でかつ「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を所轄の税務署に提出をした源泉徴収義務者は、申告するとこの対象になります。
これらの所得税徴収高計算書の違いは、「納付方法」と「締め切り」にあります。
■一般用の所得税徴収高計算書の場合
毎月納付し、その締め切りは原則として給料や報酬を支払った月の、翌月10日までです。
■納期特例分の所得税徴収高計算書の場合
年2回に分けてまとめて納付することができ、締め切りは
- 1月から6月支払い分・・・7月10日まで
- 7月から12月支払い分・・・翌年の1月20日まで
となっています。
一般用の所得税徴収高計算書 | 納期特例分の所得税徴収高計算書 | |
納付方法 | 毎月納付 | 年2回に分けてまとめて納付 |
締め切り | 給与や報酬支払月の翌月10日まで | 1月から6月支払い分→7月10日まで 7月から12月支払い分→翌年1月20日まで |
給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書の前提を確認したところで、次に所得税徴収高計算書の書き方を見ていくことにしましょう。
上にある画像が給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書です。
①~⑭までの項目に分けて解説いたします。
- ①「年度」欄
納付した日の会計年度を記入します。
※平成 30 年4月1日から平成 31 年3月 31 日までの間に納付する場合には、「30」を記入します。
- ②「税務署名」欄
所轄の税務署名を記入します。
例:新宿税務署
- ③「税務署番号」欄
「税務署番号」欄の記入は不要です。
※予め印字されている場合もあります。
- ④「整理番号」欄
会社ごとに割り振られている整理番号を記入します。
不明な場合は所轄税務署に問い合わせましょう。
- ⑤「納期等の区分」欄
給与、退職手当又は弁護士・税理士・司法書士等の報酬・料金を支払った年月を記入します。
例:平成30年1月分の給与を1月20日に支払った場合、以下のように記入します。
※納期の特例を受けている場合
→納期の特例期間の最初と最後の支払い月を記入します。
例:平成30年1月分から6月分までの給料を、同年1月20日から6月20日に支払った場合、以下のように記入します。
- ⑥「俸給、給料等」欄
俸給、給料、賃金、歳費などの通常の給与のほか、財産形成給付金等のうち給与等の金額とみなされるもの等について記入します。
※賞与や日雇い労働者の賃金については別の欄に記入します。
■注意点
- 給与を同月内に複数回にわたって支払った場合、「支払年月日」項には最後の支払年月日を記入します。
- 納期の特例を受けている場合、例えば上記の例(平成30年1月20日から6月20日にお給料を支払った場合)であれば以下のように記入します。(スペースの都合上、縦並びで表記しています。)
あ - 「人員」項には俸給、給料等を支給した実人員(≠延べ人数)を記入します。
※納期の特例の承認を受けている場合には、実人員の合計数を記入します。 - 「支給額」項には、支給した給与の総額(源泉徴収する前の額)を記入します。
- ⑦「賞与(役員賞与を除く。)」欄
・法人の場合
→役員に対して支払った賞与以外の賞与(使用人兼務役員に対する使用人職務分の賞与を含みます。)について記入します。
・個人の場合
→必要経費に算入した賞与について記入します。
■注意点
「俸給、給料等」欄の注意点と同様です。
- ⑧「日雇労働者の賃金」欄
日々雇い入れられる者(日雇労務者など)に支払う賃金で日額表の丙欄を適用して源泉徴収を行っているものについて記入します。
■注意点
「人員」項には、日々雇い入れられる者(日雇労務者など)の延べ人員を記入します。
- ⑨「退職手当等」欄
退職手当や一時恩給(所得税法第 31 条の規定により退職手当等とみなされる一時金を含みます。)などについて記入します。
■注意点
「俸給、給料等」欄の注意点と同様です
- ⑩「税理士等」欄
弁護士(外国法事務弁護士を含みます。)、税理士、公認会計士、会計士補、計理士、社会保険労務士、企業診断員、司法書士、弁理士、建築士、建築代理士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、不動産鑑定士補、測量士、測量士補、技術士、技術士補、海事代理士、火災損害鑑定人又は自動車等損害鑑定人の業務に関して支払う報酬・料金について記入します。
■注意点
「俸給、給料等」欄の注意点と同様です。
- ⑪「役員賞与」欄
法人の法人税法第2条第 15 号に規定する役員に対して支払った賞与(使用人兼務役員に対する使用人職務分の賞与を除きます。)について記入します。
■注意点
原則的に、「俸給、給料等」欄の注意点と同様です。
- ⑫「年末調整による不足税額」及び「年末調整による超過税額」の各欄
年末調整の結果生じた不足額を徴収した場合又は超過額を還付した場合に、それぞれの欄にその額を記入します。
- ⑬「本税」欄・「延滞税」欄
⑤から⑫の「税額」項に記入した数字を足し合わせた額を「本税」欄に記入します。
延滞税がある場合は、「延滞税」欄にその額を記入します。
- ⑭「合計額」欄
「本税」欄と「延滞税」欄の合計額を記入します。
所得税徴収高計算書の納付方法と注意点
ここでは、所得税徴収高計算書の納付方法と注意点についてご紹介いたします。
■納付方法
所得税徴収高計算書はその納付額と合わせて最寄りの金融機関、又は所轄の税務署に納めに行きます。
また、この他にも国税電子申告・納税システム(e-Tax)を利用して電子納税をすることも可能です。
詳しくは以下のURLをご参照ください。
e-Taxを利用して源泉所得税が納付できます!(国税庁)
■注意点
- 納付に遅れてしまった場合
延滞税や不納付加算税(原則、納付すべき税額に対して10%の税率を乗じたもの)を負担する必要がでてきます。 - 納付する源泉所得税がゼロになってしまった場合
(例:源泉徴収をしたものの年末に還付して相殺されたケース)
この場合でも、所得税徴収高計算書を提出する必要があります。
e-taxを用いて送付するか郵便を用いる等をして、提出します。
詳しくは以下のURLを参照ください。
税額の納付と所得税徴収高計算書(納付書)の記載
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まとめ
以上、所得税徴収高計算書の書き方について、よく見受けられる注意点にも触れながらご説明いたしました。
所得税徴収高計算書は、納付が一日でも遅れてしまうと延滞税や不納付加算税が課せられてしまうことから、確実に、正しい手順で作成していかなければいけません。
この記事で皆さんの所得税徴収高計算書に関する疑問が解決されれば幸いです。