羊の描かれたダカット金貨である、通称「ラムダカット」は17世紀から19世紀にかけて神聖ローマ帝国(現在のドイツ)のニュールンベルクで発行されました。現在残っているラムダカットには1700年に発行されたものと1703年に発行されたものがあります。ラムダカットには「円形」と「クリッペ(Klippe)」と呼ばれる正方形の金貨の2種類がありますが、四角型のほうが希少性が高いとされています。コインの額面は、最も大きいのが5ダカット、そこから4・3・2・1ダカットと小さくなり、更に1/2・1/4、最小単位は1/32ダカットです。小さなキャンバスに細かに描かれたデザインは、地球の上で旗を掲げて軽やかに歩く羊の丸いフォルムで、どこかかわいさを感じることができますが、このデザインには平和に対する強い願いが込められたデザインでもあります。ラムダカットが最初に発行されたのは1632年で、1618年から始まり1648年まで続いた「三十年戦争」の真っただ中の時期でした。プロテスタントとカトリックの亀裂から始まったこの戦争は、その後ヨーロッパ全体に広がって行きました。30年にも及ぶ長く悲惨な戦争を嘆き、平和を望む気持ちが強くなるのは当然といえるでしょう。そして、その平和を望む気持ちは18世紀という新しい世紀を迎えたことによってさらに強まり、1700年にラムダカットが誕生したのです。この羊はゼウスの神話がモチーフとされており、キリスト教では子羊は「神の子羊」、つまりキリストそのものを象徴するものであり、聖書やキリストを描いた絵画にはいつも登場する存在です。キリストを象徴する羊のモチーフを使うことによって、世の中を平和にしてくれる、または平和にして欲しいという願いを込めたデザインになっていることがわかります。