かの有名な大英帝国時代を築いた女王・ヴィクトリア女王の即位10周年を記念して発行されたのが、この有名な銀貨「ゴチッククラウン」の愛称で知られている5シリング銀貨です。発行初年度には8,000枚がリリースされますが、その人気の高さゆえに1853年には更に460枚が追加で鋳造されたことが記録に残っています。その人気の秘密はコイン表裏のデザインにあり、英国貨幣史上最高の彫刻師、ウィリアム・ワイオン晩年の最高傑作とされています。コイン表面に描かれているのは若き日のヴィクトリア女王の肖像で、頭上に輝く英国君主の象徴・聖エドワード王冠を始め、女王が身に纏う衣装と装飾品には、中世ヨーロッパに起源を持つ歴史的なゴチック様式の影響が見られ、碑文のゴチック体「ブラックレター」の採用と共に、女王の品格を表しています。裏面のバランスの良いデザインも圧巻で、表面と同様、ゴシック様式による英連合王国各国の国章が厳かに描かれています。1847年初発行バージョンと、それに続く1853年バージョンにおいて、コインのエッジ部分に碑文の無いプレーンエッジ・タイプが主流ですが、女王の即位10周年を意味する「Undecimo」の碑文を持つものも見受けられ、格別の人気を誇っています。なぜ10周年の記念に11番目を意味するUndecimoの語が用いられているかについては諸説ありですが、即位の初年を計上すると、1847年は11年目に当たるためにこの語が採用されたというのが有力説のようです。上記で述べているゴチッククラウンにもいくつか種類があり、エッジの違いでいえば、流通しているものから順にUNDECIMOエッジ(9割ほど)、プレーンエッジ(1割ほど)、SEPTIMOエッジ(エラーとされている)とあり、ここに1847年発行のもの、1853年発行のもの、そして試鋳貨(女王のドレスの肩から下のレースの模様がないもの)と分類されます。もっと細かく分類すると、地金の違いもありますが、1853年発行のものは発行数がそもそも少なく、幻と呼ばれているものもあります。