世界各地を植民地化して繁栄を極めた大英帝国を象徴する女王として知られるヴィクトリア女王。1837年に18歳という若さで即位した彼女は、1901年までの63年間という、エリザベス2世に次ぐ在位期間を誇ります。イギリス本国で発行されるヴィクトリア女王の肖像は大きく分けて4種類ですが、このオールドヘッドタイプは、最晩年に差し掛かっていた1893年当時のヴィクトリア女王の威厳を余すところなく描くコイン肖像を表面に掲げる大作に他なりません。1861年に最愛の夫アルバート公爵を亡くした女王はその後、自身の崩御の年1901年まで実に40年間にわたって喪服を着用していたことが伝説として記録されています。当コインの頭上に見られるヴェールは、未亡人となった女王の貞淑さとキリスト教徒としての絶対感を暗示していると言われています。新規のコンペティションに出品された数多くの作品の中から選定され、勝利を勝ち取ったこのポートレートは、女王自身もことのほかお気に召していたようで、晩年の女王ならではの風格を表出する独特の作風によって、これ迄多くのコイン愛好家を魅了してきました。また裏面に描かれている「聖ジョージの竜退治」の意匠は、ジョージ3世の治世以降、全ての歴代国王の治世を代表するソブリン金貨裏面の主要な題材として今日なおも脈々と受け継がれているベネデット・ピストゥルッチによる傑出した作品です。イギリスの女王でありながら多くの国でその肖像がデザインされ、また人気の高さを誇るのは、ヴィクトリア朝の繁栄を象徴するものであり、また、世界各地の被支配民からも敬愛の念を一身に集めていたからこそのものです。ヴィクトリアの名はコインのみならず世界中の地名となって、現在も地図に名を刻んでいます。