この金貨は、チェコスロバキア共和国の建国初期にあたる1923年に、クレムニツァ造幣局で鋳造された1ドダカット金貨です。1923年は、第一次世界大戦終結後の1918年にオーストリア=ハンガリー帝国から独立し、チェコスロバキア共和国が成立して間もない時期にあたります。新しい国家は、多民族国家としての課題を抱えながらも、民主主義体制の確立と経済的安定を目指していました。表面には、チェコのライオン(二尾のボヘミアのライオン)が描かれています。ライオンの胸にはスロバキアの盾が配されており、これはチェコとスロバキアの二つの主要民族による共和国の統合を象徴しています。裏面には、チェコの守護聖人であるヴァーツラフ公の半身像が正面を向いて描かれています。このコインの裏面に描かれた聖ヴァーツラフは、9世紀末から10世紀前半にかけて実在したボヘミア公です。彼は、キリスト教を積極的に受け入れ、異教徒の多いボヘミアにキリスト教を広めることに尽力しました。ヴァーツラフ公は、その信仰心と賢明な統治によって民衆から厚い信頼を得ましたが、弟ボレスラフによって暗殺されたと伝えられています。彼の死後、その殉教が人々の心を打ち、チェコの守護聖人として崇敬されるようになりました。ヴァーツラフ公は、単なる歴史上の人物にとどまらず、チェコ国民の精神的支柱であり、独立と国家主権の象徴です。特に、国家が困難な状況に直面した際には、彼の存在が国民の心を一つにする役割を果たしてきました。プラハのヴァーツラフ広場には彼の騎馬像が建っており、チェコの歴史的出来事の舞台となってきました。