オーストリアの女帝マリアテレジアは、ハプスブルク家の女性君主であり、悲劇の王妃として知られるマリーアントワネットの母親でもあります。
在位時にはマリアテレジアの肖像が描かれた貨幣が発行されており、アンティークコインとして現在では収集の対象になっていますが、そのなかでも1ターレル銀貨は非常に有名です。
なぜなら、この1ターレル銀貨はオーストリアの君主が変わり、新しい通貨が発行されても200年以上一部の地域で使用を続けられたからです。
この記事では、マリアテレジアの1ターレル銀貨について紹介したうえで、200年以上使用された理由についても解説します。
オーストリアの女帝マリアテレジアとは
概要 | 内容 |
父親 | カール6世 |
母親 | エリーザベト・クリスティーネ |
家名 | ハプスブルク家 |
配偶者 | フランツ1世 |
子供 | ヨーゼフ2世・マリー・アントワネット含む16人 |
マリアテレジアは、神聖ローマ帝国のフランツ1世シュテファンの皇后であり、オーストリア女大公として1740~1780年に在位したオーストリアの実質的な君主で、女帝として知られています。
1717年、ハプスブルク家のカール6世と皇后エリーザベト・クリスティーネの長女として誕生しました。
カール6世に成人した子供に男児がいなかったことから、相続問題が発生し、オーストリア継承戦争にまで発展しました。
戦争に発展した相続問題でしたが、アーヘンの和約により終結し、シュレージエンの割譲は免れませんでしたが、マリアテレジアの相続は認められました。
女帝と呼ばれるマリアテレジアですが、形式的な立場としては皇后・女大公という扱いです。
しかし、夫のフランツ1世が政治に興味がなかったことから、治世は彼女が行っていたこともあり、実質的な神聖ローマ皇帝であったといわれることもあります。
実質的には、40年にもおよぶ長期的な統治を実現したマリアテレジアは、近代化に貢献する革新的な政治を行ったことが評価されており、現代でも高い人気を誇る人物です。
マリアテレジアの1ターレル銀貨について
概要 | 内容 |
発行国 | オーストリア |
発行年 | 1780年 |
額面 | 1ターレル |
直径 | 41mm |
重量 | 28g |
品位 | .833 Silver |
マリアテレジアの1ターレル銀貨は、表面にはマリア・テレジアの右向き肖像が描かれ、裏面には盾の紋章を掲げる双頭の鷲が描かれているのが特徴です。
表面から裏面に続く銘文は、「M・THERESIA・D・G・R・IMP・HU・BO・REG・ARCHID・AVST・DUX・BURG・CO・TYR・1780・X」と書かれています。
この銀貨は貿易用に発行されていたことから「レヴァント・ターレル」と呼ばれました。
マリアテレジアの在位中から通貨として周辺諸国から高い人気を集めていましたが、問題はマリアテレジアの没後もこの1ターレル銀貨が使用を続けられたことです。
この1ターレル銀貨が使用を続けられた経緯と、現在でも人気を集めている理由について紹介します。
カファ地方のコーヒーを買うのに使用される
エチオピアの西部にあるカファ地方はコーヒーの語源にもなった地域であり、マリアテレジアの1ターレル銀貨が長く使われた地域でした。
この地方でコーヒーを買う場合は、マリアテレジアの銀貨が必要になり、他の銀貨での支払いを受け付けることはありません。
このような現象が起きた理由は、マリアテレジアの銀貨がカファ地方を中心とした経済の流れに組み込まれていたからです。
鋳造されたマリアテレジアの銀貨は現在のイエメン共和国のアデンにたどり着き、カファ地方のコーヒーと交換されます。
銀貨の一部は税金として納められ、日用品を購入するために流れていき再びアデンに戻るのです。
民族・宗教・行政・文化を越境するには、共通認識を持った統一された銀貨が必要になり、マリアテレジアの銀貨は多くの人々のなかで共通した価値を持つ銀貨として普及しました。
できあがった経済の流れで一度定着した銀貨を新たな銀貨に変えることは難しく、無理に変えようとすれば経済の流れが止まることも考えられたので、特定の経済圏でマリアテレジアのターレル銀貨以外の銀貨が通貨としての価値を失う事態になりました。。
1780年の銀貨が200年以上も使用される
できあがった経済の流れにおいて、マリアテレジアの銀貨は重要な役割を果たしていますが、サイクルを続けるほど1ターレル銀貨は供給がなければ失われていきます。
マリアテレジアの銀貨は1780年製の銀貨が最後となりますが、需要があったことから、オーストリア政府から1780年発行と書かれた銀貨がマリアテレジアの没後も発行されました。
発行枚数は億単位であり、実質的には全世界で200年以上使用を続けられたといわれています。
さらに通貨を発行するオーストリア政府が、1935年に通貨の鋳造権を第一次大戦敗北によりイタリアに譲渡すると、今度はヨーロッパの多くの諸外国がマリアテレジアの銀貨の鋳造に乗り出しました。
そのため、マリアテレジアの銀貨は、オーストリアだけでなくヨーロッパの各地で発行された歴史もあります。
安産のお守りとして使われる
1960年頃まで各地で発行が続けられ、1970年までイエメンの公式貨幣として認可されていたマリアテレジアの1ターレル銀貨は、高い知名度を持つことから現在ではお守りとして使用されることがあります。
マリアテレジアは治世を行った女帝という印象のほかに、多産であったことでも知られており、生涯で16人の子供を生みました。
父カール6世に男児の後継者が生まれず、後継者問題に苦しんだことを理由に、マリアテレジアは多くの子供を残そうとしたのです。
後に王位を継ぐ息子のヨーゼフ2世や、フランス王太子ルイ16世と結婚した悲劇の女王マリーアントワネットがマリアテレジアの子供では有名ですが、他にも合わせて16人の子供がいます。
よって、現在では通貨としての通用力を失ったものの、マリアテレジアが多くの子供を産んだ女帝であったことから安産のお守りとして1ターレル銀貨が使われることがあります。
マリアテレジアの銀貨に関するよくある質問
最後に、マリアテレジアの銀貨に関するよくある質問をまとめました。
- マリアテレジアの銀貨の価値は?
- オーストリアのアンティークコインを購入する方法は?
それぞれ詳しく見ていきましょう。
マリアテレジアの銀貨の価値は?
マリアテレジアの銀貨は、発行枚数が多過ぎることからアンティークコインとしての価値は高くはないのが特徴です。
人気の銀貨であることから、プルーフ加工やリストライクなどの商品は販売されていますが、幅広く販売され過ぎていることから長期的な価値の上昇を期待するのは難しいかもしれません。
安産のお守りなど、アンティークコインとは異なる価値を見出されていることから高い人気を集めていますが、人気があっても希少性が低い場合はアンティークコインとして評価されにくいです。
資産として保有するのではなく、お守りになる理由があることから、プレゼントなどに選ぶのが適切な銀貨といえるでしょう。
オーストリアのアンティークコインを購入する方法は?
マリアテレジアの1ターレル銀貨をはじめとするオーストリアのアンティークコインは、コイン専門店から購入できます。
「コインライブラリー・プリンシパル」では、オーストリアのアンティークコインの販売・買取を実施中です。
プレゼントよりも資産価値のある銀貨をお求めの方は、コイン専門店で他の希少性のあるコインを選ぶのがおすすめです。
アンティークコインの売却も受け付けているので、オーストリアをはじめとする世界の希少価値のあるコインをお持ちの方はこちらのページからお問い合わせください。
まとめ
マリアテレジアの1ターレル銀貨は、当時の経済状況から広く普及し、他の国が介入して別の通貨を普及させようとしても何度も失敗することとなった特別な銀貨です。
発行枚数は億を超え、世界中に広く知名度を持つ銀貨となったことから、現在でも安産用のお守りとして高い人気を集めています。
アンティークコインとしての価値はけっして高くはありませんが、場面を選べばプレゼントなどにも最適な銀貨といえるでしょう。
オーストリアのアンティークコインについて詳しく知りたい方はこちらの記事をチェックしてください。