アンティークコインの金貨、地金型金貨などの金地金を含む金資産の相続でかかる税金が気になる方もいることでしょう。
金の相続では税金がかかりますが、金資産によって相続税の評価額の決定方法も変わります。
また、金資産を相続に活用することを検討している場合は、複数のメリットがあるため、現金を金資産に換えることも検討しましょう。
この記事では、金の相続で税金がかかる金資産の種類と相続税評価額を決定する方法、金を相続資産として活用するメリットを紹介します。
この記事のポイント
・金資産の相続税評価額を決定する方法を売買実例価格・精通者意見価格で解説
金の相続では税金がかかる
金(ゴールド)は遺産として高い価値をもつため、相続税の課税対象になります。
実際に相続税がかかるかどうかは、相続税の基礎控除の範囲を超えるかどうかで変わってきます。
そのため、必ずしも相続税がかかるとは限りません。
しかし、基本的には金資産であれば相続税の課税対象になると考えて良いでしょう。
ただし、金資産を相続するにあたって以下の例外が考えられます。
例外的な非課税財産もある
金資産であっても仏壇や仏具など被相続人が日常的に礼拝に使っていた祭祀財産は非課税になります。
文化的・宗教的に重要なものは相続税の課税対象から除外されるためです。
ただし、許されるのは日常礼拝の用に供しているものであり、明らかに高額なものや骨董的価値や換金性があるものは含まれません。
純金製や過度な装飾が施された仏壇・仏具は、換金性が高いことから、祭祀財産と認められず課税対象になる可能性があります。
また、例外的に分割払い・ローンで購入した際に購入代金の支払いが完了していない場合は、相続発生時点で支払いが済んでいる分しか非課税とは見なされません。
金を対象とする金融資産には異なる税制が適用される
金のなかには金を対象とする金融商品も存在します。
金を対象とする金融資産とは、現物を手元に置かずに保有できる投資手段のことです。
例えば、金を対象とする投資信託であれば、相続ではほかの金融商品と同様に扱われます。
毎月一定額または一定重量の金を積立・購入する純金積立も同じ扱いです。
金融資産の相続税は相続開始時点の時価に基づき評価額が算出されます。
現物の金資産は必ずしも決まった価格が存在するとは限らないため、相続税の評価額の算出には別の方法が必要です。
相続税だけでなく、売却による税金の区分も異なるため、税金においては異なる対象であることを理解しておきましょう。
相続税の対象になる金資産の種類
相続税の対象になる金資産の種類を以下にまとめました。
- 金地金(インゴット・地金型金貨など)
- アンティークコイン
- 金を加工したアクセサリーなど
それぞれ詳しく見ていきましょう。
金地金(インゴット・地金型金貨など)
金地金(きんじがね)は、投資や保有のために素材としての金をそのまま形にしています。
代表的な形がインゴットや延べ棒、各国造幣局が発行する地金型金貨です。
インゴットは四角い金の塊で、製錬所やブランド名、品位、重さ、個別のシリアル番号が記録されています。
刻印は、真贋判定や流通管理のための身分証明の役割をもち、刻印のない塊は同じ形でもインゴットとは扱われません。
これらの仕様や刻印は、偽造防止と相続税などの徴税の追跡性を高めるために整えられています。
地金型金貨は投資用に発行された金貨であり、中身の金の価値を保有するために作られています。
代表的な金貨はカナダのメイプルリーフ金貨、オーストリアのウィーン金貨ハーモニー、アメリカのイーグル金貨です。
基本的には素材価値が中心であり、希少性や状態からプレミアがつくアンティークコインをはじめとする金貨は収集型金貨と呼ばれます。
アンティークコイン
アンティークコインは、古いコインの総称であり、厳密な国際定義があるわけではありません。
100年以上前のコインを指すことが多いですが、相続税評価の実務では発行年に関係なく、希少性・需要・保存状態から価値を決定します。
地金型金貨と比較して、同じ金貨でも素材よりもどれだけ珍しく、どれだけ状態がよいかというプレミアで価値が大きく変化することが特徴です。
そのため、相続税評価額を算出するために共通した価値基準を用意することが難しいです。
アンティークコインの金貨は、発行枚数による希少性、同じ種類の金貨であっても状態によって価値が変化します。
根拠のある相続税評価額を算出するためには専門家による助けが必要になり、最終的な相続税の決定にも影響を及ぼすでしょう。
金を加工したアクセサリーなど
金を加工したアクセサリーは、指輪・ネックレス・ブレスレット・ピアス・金外装の腕時計など、身につける前提で作られた金製品の総称です。
純度によって金の含有率が異なり、アクセサリー・ジュエリーであればK18・K14・K10の合金を使用することが一般的になります。
純金(K24)は柔らかすぎることから、金を加工したアクセサリーなどの実用品には向きません。
アンティークコインなど過去の流通貨幣も純金ではなく、流通のために金との合金を使用していました。
金の価値を保有する地金型金貨であれば純金(K24)で作られることも多いです。
金の割合を下げ、硬さや価格を調整しており、K表示(24分率)で表記される仕組みです。
国内の金製品には刻印が刻まれているため、金の加工製品の合金の種類を把握できるでしょう。
資産価値は商品によって大きく異なり、家財に含めて計上しやすい5万円以下の価値の商品も存在します。
金資産の相続税評価額を決定する方法
金資産の相続税評価額を決定する方法を紹介します。
- 売買実例価格による決定方法(金地金など)
- 精通者意見価格による決定方法(アンティークコインなど)
- 価値が低い場合は家財一式として計上できる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
売買実例価格による決定方法(金地金など)
売買実例価格は、その財産をいま売ったら、実際にどれくらいで買い取られるかという基準で決定する相続税評価額です。
つまり、相続開始時点の市場や複数の取引記録が付けた値段を使用することが基本になります。
金地金は市場が整備されており、日本では貴金属大手が毎日、1gあたりの店頭買取価格を公表しています。
そのため、相続では相続開始日の「買取価格 × 重量(g)」で評価することが売買実例価格による決定方法です。
金地金の重量を把握して、相続開始日の買取相場を確認すれば相続税評価額を算出できます。
ただし、金の店頭買取価格は業者によって異なることもあります。
どの業者の店頭買取価格を使用して算出するかは自由であるため、もっとも店頭買取価格が安く、相続税に有利になる基準を使用して問題ありません。
そのため、相続日時点の店頭買取価格を大手を中心に複数調べるといいでしょう。
精通者意見価格による決定方法(アンティークコインなど)
売買実例が十分に見当たらない、または希少性・保存状態・来歴などで価格が大きく変わる場合は、精通者意見価格で評価します。
専門家(美術商・鑑定人など)の意見を根拠にした額で、一般動産や美術品の評価に使用されています。
金資産でもアンティークコインは骨董品のカテゴリーにある資産です。
精通者意見価格であれば、アンティークコインのように個体差が価値を左右する収集品でも客観的に根拠のある価値を算出可能です。
市場の比較が取りにくく、売買実例が少ないアンティークコインは精通者意見価格で相続税評価額を算出しましょう。
価値が低い場合は家財一式として計上できる
家庭で使う家電・家具・衣類、細かな金属を含む動産は1個5万円以下であれば、一世帯ごとに家財一式でまとめて評価できます。
数え上げればキリがない小さな持ち物を実務的に処理するためのまとめ方になります。
単品で5万円を超えない価値が低い金製アクセサリーは、ほかの家庭用動産とまとめて一括にして問題ありません。
家財全体のまとまりとして金額を付けられるので、相続税の申告の手間が大きく減ります。
ただし、単品で5万円を超える金資産は家財としてまとめて評価できないため、一つ一つ申告する必要があるでしょう。
金を相続資産として活用するメリット
金を相続資産として活用するメリットは以下のとおりです。
- 実物資産であるため長期的に価値を守りやすい
- 不動産とは異なり維持コストがかからない
- カウンターパーティ・リスクがない
それぞれ詳しく解説します。
実物資産であるため長期的に価値を守りやすい
金は実物資産であり、通貨のように政府や金融機関の信用で成り立っていません。
インフレで価値が目減りしたり、金融システムの混乱で信用を失ったりするリスクが小さいと考えられます。
よって、金は価値の保全手段であるという考え方が多くの投資家の間で共有されている状況です。
実際に経済や政治が不安定な時期には、金はその安定性から注目され、安全な避難先としての役割を果たします。
インフレをヘッジする手段として評価する声も多いため、金は守りの資産といえます。
株のように配当などの継続的な収入が得られるわけではありませんが、資産を積極的に増やす手段としては適さないかもしれません。
しかし、相続は資産を相続人に譲渡するために守る必要があるため、相続資産には適しているでしょう。
不動産とは異なり維持コストがかからない
金と同様の実物資産には不動産があり、家賃収入などで継続的な収入が得られることが魅力です。
インフレにも強いことから、不動産は相続資産として活用されることもあります。
しかし、不動産は修繕費・管理費などの費用、固定資産税などの税金を継続的に負担しなければなりません。
不動産を保有し続けるには維持コストがかかり、建物部分に関してはなにもしなくても月日が経つにつれて劣化する特徴があります。
一方で、金は維持コストがかからないため、費用をかけずに保有を続けやすいことがメリットです。
保管コストは別途かかることもありますが、不動産に比べればごくわずかな費用といえるでしょう。
また、金はなにもしなくても腐らず壊れず価値が残るという利点があります。
不動産と比較すれば金の維持コストは非常に限定的であり、世代を越えて保有を続けやすい資産です。
カウンターパーティ・リスクがない
カウンターパーティ・リスクとは、発行者や運用者が倒産したり信用を失った際に資産が危険にさらされる可能性を指します。
例えば、株式や債券、あるいは投資信託などを通じて間接的に資産を保有する場合、株式であれば発行者である企業、投資信託であれば運用会社の倒産リスクです。
金資産は、誰の負債でもなく、そのもの自体に価値があります。
いつでも、どこでも換金できると言われるほど流動性の高さも持ち、市場の受け入れ性が極めて広いです。
中央銀行の信用不安や金融システムの不安定さの影響を直接受けにくい特徴があります。
物理的に保有できる金資産は最後のセーフティネットになるため安心して保有できるでしょう。
家族のために万が一に備えておきたい方にとって金資産は助けになります。
金資産の相続に関する注意点
最後に、金資産の相続に関する注意点を以下にまとめました。
- 購入価格がわかる書類を必ず保管する
- 精通者意見価格による相続税評価額の決定は専門家に相談する
- 隠さずに正直に申告する
金の相続を検討している方から、実際に親族から金資産を相続した方が知っておきたい内容を解説します。
購入価格がわかる書類を必ず保管する
金を相続する際には、資産が将来的に売却されることを踏まえて、購入時の価格を示す書類を確実に残しておくことが重要です。
相続した金の売却時に譲渡所得を計算するためには、購入時の価格(取得費)を証明できる資料が必要です。
仮に長期譲渡所得に分類される場合は、売却時の税金は「売却価額–(購入代金–譲渡費用)–50万円×1/2」になります。
しかし、購入代金がわからない状態であれば、取得費は売却価額の5%です。
仮に金の売却代金が500万円であり、購入代金と譲渡費用の合計が300万円であったと仮定しましょう。
売却時の税金は「500万円– 300万円– 50万円×1/2=75万円」です。
しかし、購入代金・譲渡費用がわからない場合は「500万円– (500万円×5%)×1/2=212万5,000円」が譲渡所得になります。
課税所得が大幅に増額することで発生する税金が大きく増加しました。
相続人に資産をできる限り残すためにも購入価格がわかる書類を必ず保管するようにしましょう。
精通者意見価格による相続税評価額の決定は専門家に相談する
アンティークコインなどの同じ金でも個体差で価値が大きく変わるものを相続する際には、精通者意見価格による評価が必要になります。
専門家に評価を依頼し、鑑定書や評価報告書を取得することで、相続税評価で客観的な裏付けを示せます。
相談する専門家は、相続税を納めるための知識を持っている税理士が適任です。
税理士であれば、精通者意見価格による客観的な裏付けのある相続税評価額を算出するために必要な知識を知っているからです。
また、アンティークコインを購入する前に相続のことを専門店に相談することも選択肢の一つになります。
隠さずに正直に申告する
相続時に金資産を隠したり、申告を怠ったりすることは、法的に重大なリスクとなります。
銀行や業者の記録、相続財産調査などから、実物で保管する隠された金資産も税務当局に把握される可能性も。
特に金資産の売却時に発覚しやすく、保有している金を所有した経緯を調べることで相続によって手に入れたものであると発覚します。
相続によって手に入れた金は隠さずに正直に申告して相続税を納めるようにしましょう。
まとめ
金資産の相続は、インゴットや地金型金貨、アンティークコイン、金を使った装飾品など幅広い形態が対象となります。
実物資産として長期的に価値を保ちやすく、不動産のような維持費や管理コストが不要であることから、相続財産としても魅力的です。
ただし、形や用途によって相続税の評価方法や適用税制が異なるため、正しい知識と準備が欠かせません。
評価額の算定では、金地金のように市場取引価格をもとにする場合もあれば、アンティークコインのように専門家の鑑定が必要な場合もあります。
さらに、購入価格や入手経緯を示す書類の保管、正直な申告、そして専門家への相談が重要です。
これらを怠ると、税務上のトラブルや余計な課税負担が生じる可能性があります。
相続を円滑に進め、資産の価値を最大限に守るためにも、事前の準備と正確な手続きが求められます。