金は構造などの性質から、他の金属と比較して純度が高いほど柔らかい特性を持っています。
金メダルなど、純金を噛む風習があるのは、人間の歯は金よりも硬いことから金に傷がつくため、真贋を見きわめるための判定方法に利用されてきたからです。
金はその柔らかさから、アクセサリー、工業製品において加工しやすく、金にあえて他の金属を混ぜることによって硬度を上げて加工する場合もあります。
アンティークコインなどの金貨においてもコレクター向けに発行されたコレクション用の金貨は純金の場合もありますが、流通用に発行された金貨は他の金属を混ぜて耐久性を上げています。
この記事では、金が柔らかい理由を解説し、金属の特徴とアンティークコインを含めた金製品の保管の注意点を解説します。
この記事のポイント
・アンティークコインを含む適切な金製品の保管方法をご紹介
金の純度が高いほど柔らかい理由
金はほかの金属が含まれていない状態で純度が高いほど柔らかくなっています。
ビッカース硬さ(HV)を測定すると、25HV~70HVと他の金属と比較して低い値を示します。
以下に主な金属のビッカース硬さをまとめました。
金属の種類 | ビッカース硬さ(HV) |
金 | 25HV~70HV |
銀 | 25HV~100HV |
プラチナ | 50HV~110HV |
銅 | 80HV~140HV |
チタン合金 | 110HV〜150HV |
鋳鉄 | 160HV〜180HV |
ダイヤモンド | 7,140HV〜15,300HV |
ビッカース硬さは金属のなかでも最硬であるダイヤモンドを基準に測定されます。
金がほかの金属として柔らかい理由は以下のとおりです。
- 面心立方構造(FCC構造)であるから
- 柔軟な金属結合によって結びついているから
それぞれ詳しく見ていきましょう。
面心立方構造(FCC構造)であるから
金は面心立方構造(FCC)をとる金属元素の一つです。
FCC構造は、立方体の各頂点および各面の中心に原子が規則正しく配置される結晶構造のことを指します。
FCC構造には12の滑り系が存在し、最密面に沿って原子面の摩擦抵抗が小さく滑りやすいです。
外力が加わると原子配列が壊れることなく容易にずれて、塑性変形が起こりやすくなります。
対称的な金属の構造には、体心立方構造(BCC)が挙げられ、FCC構造と比較して変形が制限されます。
よって、金はBCC構造のほかの金属と比較して柔らかく、加工に優れた性質を持っているといえるでしょう。
金の可鍛性の高さの実験では、1オンスの金を叩きのばすと5m四方の薄板を作れることが確認されています。
柔軟な金属結合によって結びついているから
金属結合は、原子核から離脱した自由電子が金属陽イオン間を自由に動き回ることで形成される結合様式です。
自由電子は結晶格子内を束縛されずに移動できるため、外力が加わると原子が移動しても電子が即座に再配置を補い、結合が破壊されにくいです。
このモデルにより、イオン結合や共有結合のように結合が局所的に切断されることなく、原子間の位置調整が可能になります。
外力下では金属結合が弾性域を超えると容易に塑性域に移行し、破壊を伴わずに大きく変形可能です。
特に金の場合、d軌道にある10電子の内殻が閉殻構造を形成し、その外側の1個のs電子が自由電子として結合に参加することで、結合の柔軟性が高まっています。
科学的な根拠をもとに金が柔らかい理由を解説しましたが、その柔らかさは金の純度によっても変化するため解説します。
ほかの金属と合金化すると硬くなる
金はK24(24金)、K18(18金)など、純度の種類が存在します。
24を100%と考える24分率を採用しており、純金であればすべて金であることからK24(24金)と表記されます。
以下に主な金の純度をまとめました。
純度の種類 | 金の含有率 |
K24・24金 | 99.99%~100% |
K22・22金 | 91.7% |
K18・18金 | 75% |
K14・14金 | 58.5% |
K10・10金 | 42% |
純金を銀・銅・アルミニウムなどの金属元素と合金化すると、柔軟性は維持されますが、硬度が上昇します。
硬度が上昇する理由は、金属結晶内に新たな元素が導入されることで、金属の塑性変形挙動が大きく変化するからです。
よって、金は純度が高いほど柔らかく傷つきやすく、ほかの金属の割合を増やすほど硬く耐久性が上昇します。
金の純度について詳しく知りたい方はこちらの記事をチェックしてください。
金の純度とは? K24(24金)などの主な種類の一覧・調べる方法を紹介
金属としての金の特徴
金属としての金の特徴を以下にまとめました。
- 独特の光沢がある美しい色合い
- 優れた展性と延性により加工しやすい
- 腐食に耐性があり科学的に安定している
- 高い電気・熱伝導性を持つ
- 比重が高く重い
それぞれ詳しく見ていきましょう。
独特の光沢がある美しい色合い
金は独特の光沢がある美しい色合いであることから、宝飾品や美術工芸品において古来から最上級の素材として扱われてきた歴史があります。
金属としての光沢(メタリックラスター)は、自由電子の海による鏡面反射が原因であり、ほとんどの金属は可視光を広範囲に反射するため銀白色に見えます。
しかし、金はプラズモン共鳴周波数が可視光の青緑域にあるため、短波長域の青色光を透過または吸収し、長波長域の黄赤色光を強く反射した結果、特有の色が生じているのです。
合金化によりさらに多彩な表現が可能であり、銅との合金であるピンクゴールド、銀とのグリーンゴールド、アルミニウムとのパープルゴールドなどがあります。
アクセサリー・コインに加工することで、その美しさを際立たせてくれる金属といえるでしょう。
優れた展性と延性により加工しやすい
金は全金属中で最も展性・延性に優れており、薄板への加工だけでなく、非常に薄い金箔への加工も可能としています。
純金を限界まで引き延ばすと1オンスで約80kmもの長さのワイヤーを引き伸ばせるといわれており、優れた展性を持ちます。
ナノワイヤー製造にも応用され、単原子幅のワイヤーを作製しうるほどの延性が確認されました。
加工する際には純金では柔らかすぎるため、18K(18金)以下まで純度を落として、加工に用いることが一般的です。
複雑なデザインのジュエリー、精密電子部品などの加工に応用しやすいことが魅力となっています。
腐食に耐性があり科学的に安定している
金は酸化や腐食に対して非常に高い耐性があり、常温常圧下ではほとんどの酸化反応が起こりません。
耐食性と化学的安定性により、スマートフォンやコンピュータの基板に用いられる接点・端子として、半導体パッケージ内のワイヤーボンディングにも採用されています。
ほかにも医療分野では、生体適合性の高さからペースメーカー端子や歯科インプラントにも利用されています。
金貨として保管する場合、腐食などによる劣化を気にせずに保管を続けられることは強みといえるでしょう。
高い電気・熱伝導性を持つ
金は電子が自由に移動できる金属結合の性質を持ち、電気抵抗率が低いため優れた電気伝導性を持ちます。
金は熱伝導率が高く、銀や銅に次いで金属中で上位に位置し、熱拡散材料としても利用されています。
航空宇宙機器の電子部品にも使用されており、過酷環境下でも安定した接触を維持できることが魅力です。
金の電気・熱伝導性の高さは電子部品に使用する場合において、信頼性を高めます。
比重が高く重い
金の密度は約19.30g/cm³であり、ほとんどの元素中でタングステンに次いで高い値を示します。
高密度ゆえに、同体積の金属と比較すると極めて重いです。
金のインゴット、大型の金貨を実際に手に取ったとき、大きさから想定される重量よりも重く感じるのは、金の比重が高いからです。
比重の高さは金の品質検査や純度判定にも利用され、比重計測によって合金成分を推定できる場合があります。
ほかの金属よりも重いことから、アンティークコインの真贋判定にも役立つ場合があります。
金貨の真贋の判定方法について詳しく知りたい方はこちらの記事をチェックしてください。
金貨の本物と偽物の見分け方は? コインを傷つけずに判定する方法を紹介
金製品を保管する場合の注意点
金製品を保管する場合の注意点を以下にまとめました。
- 酸素や水分との接触を避けるようにする
- 直射日光や高湿度を避ける
- セキュリティ対策も考える
それぞれ詳しく見ていきましょう。
酸素や水分との接触を避けるようにする
金そのものは化学的に非常に安定していますが、合金には銅や銀など酸素・水分に弱い金属が含まれます。
よって、金の保管環境によっては、表面に微量の酸化物が生成され、変色や黒ずみが起こるかもしれません。
入浴やプールにおいては、必ず金製品のアクセサリーを外すようにしましょう。
直射日光や高湿度を避ける
紫外線は金そのものを化学的に変化させることは少ないです。
ただし、合金部分に含まれる有機成分を変色させる場合があるため、窓際や屋外に金を放置することは避けましょう。
相対湿度が60%以上になると合金部の腐食リスクが急増するため、保管場所は相対湿度30%~50%に維持するのが理想的です。
また、温度の変化が激しい場所では結露が発生しやすく、金の表面に水滴が付着して錆びの要因となることも。
直射日光の当たらない暗所で温度・湿度ともに安定した場所を確保しましょう。
セキュリティ対策も考える
金は希少性が高く価値がある金属であるため、盗難のリスクが高いことから、セキュリティ対策を考える必要があります。
そのため、自宅で保管する場合は金庫を利用することが一般的です。
防犯・耐火・耐水性能が高い金庫を選択して、床にボルト固定して転倒や持ち去りを防ぐようにしましょう。
必ずしも自宅で保管するのではなく、銀行の貸金庫、専門の貴金属保管サービスを利用するのも選択肢の一つです。
金製品によって適切なセキュリティ対策を考えるようにしましょう。
金貨のアンティークコインの適切な取り扱い方法
金貨のアンティークコインは、金が柔らかく傷つきやすい性質から状態を保全するために適切に取り扱う必要があります。
アンティークコインは純金である場合や、高純度であることが多いため、ほかの金製品と比較しても傷つきやすいです。
また、万が一にも状態を損ねると、価値が大きく減少することも。
金が柔らかく傷つきやすいため、アンティークコインを適切な取り扱い方法をまとめました。
- 素手では絶対に触れないようにする
- スラブなど密閉性の高いケースで保管する
- 保管サービスを利用する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
素手では絶対に触れないようにする
アンティークコインは、表面の微細な傷や指紋によって価値が大きく変動させるため、素手では絶対に触れないようにしてください。
皮脂や汚れが金貨の金属表面を長期的に劣化させるため、どうしても触らなければならない場合は、綿手袋やニトリル手袋を着用するようにしましょう。
ただし、手袋を着用したとしても繊維の付着や、小さな摩耗が発生する可能性はあるため、触る必要がないならできる限り接触しないことが重要です。
スラブなど密閉性の高いケースで保管する
スラブは、コインを傷つけないようにするために作られた専門の透明プラスチックケースのことです。
コインを外部からの物理的衝撃、湿気、ほこりから守り、開封しない限りは気密状態が維持されます。
スラブでの保管は、貴重なコインを長期的に安定して保管するにあたって最適な方法といえるでしょう。
保管サービスを利用する
アンティークコインは自宅で保管するのではなく、保管サービスを利用して信頼できる場所で保管するほうが安心です。
保管サービスを依頼できるアンティークコインの店舗で購入すれば、改めて金貨の保管を依頼する必要がありません。
当サイト「コインライブラリー・プリンシパル」では、購入した金貨を専門の金庫で預かる保管サービスも提供しています。
アンティークコインを安心して保管するために、保管サービスの利用を検討しましょう。
金貨の適切な保管方法は以下の記事で紹介しています。
金貨の適切な保管方法は? 注意点とおすすめの方法について解説
まとめ
金は純度が高いほど柔らかく、加工しやすい特性を持っており、腐食にも強いため、宝飾品や工業製品としても広く活用されてきました。
ただし、柔らかく傷に弱い性質から、純度の高い金貨のアンティークコインは、傷や変色を防ぐための適切な保管・取り扱いが重要です。
長期的に安全に保管するなら、ご自宅で保管するよりも保管サービスの利用をおすすめします。