当たり前に使用することも多い貴金属という言葉ですが、その意味をご存じでしょうか?
簡単に説明すれば、一般的な金属にはない性質を持つ希少な金属のことを指しますが、化学的に定義されています。
貴金属は、時計・アクセサリー・コインなどの材料として需要があり、希少であることから一定の資産価値を持ちます。
この記事では、貴金属の化学的な定義と種類、資産価値の高い金属を紹介します。
この記事のポイント
・資産価値の高い金属と各貴金属の代表的なアンティークコインを紹介
貴金属とは?
貴金属は、化合物を作りにくく希少性の高い金属とされる元素群です。
一般的には8元素あり、周期表でdブロックに位置し、電子構造的にd殻が不完全なため、独特の化学的・物理的性質を示します。
貴金属は酸やアルカリ、空気中の酸素などと反応しにくく、腐食や酸化に強い性質を持ちます。
電気化学の観点では、標準水素電極と比べて高い正極電位、つまり、イオン化しにくい性質を示す金属と定義されることも。
これにより電気化学的安定性が示されます。
イオン化傾向が小さいため、一般的な酸で溶けにくく、金(Au)であれば硝酸と塩酸の混合溶液である王水など特別な試薬でしか溶解しません。
よって、貴金属は化学的な定義に基づいた高い安定性と希少性から、以下の分野に応用されます。
- ジュエリー・装飾
- 工業用途
- 医療・化学研究
- 投資資産
希少であるため採掘量が限られ、需要と供給のバランスによって価格が決まる点も大きな特徴です。
卑金属との違い
貴金属は化学的にイオン化傾向が低く、王水のような強力な試薬でもない限り溶解しにくい性質を持ちます。
これに対し卑金属は電子を放出しやすく、空気中や湿気中で酸化・腐食を起こしやすい性質があります
例えば、鉄や銅、アルミニウム、ニッケルなどはイオン化傾向が比較的大きいです。
加工に使用する場合は、酸や水分との反応で腐食が進むため、塗装・メッキなどの表面保護や合金化による耐腐食性向上措置が一般的に必要になります。
卑金属は地殻中に豊富に存在し、産業的に大量生産・利用されるため、特別な需要がない場合を除いて希少ではありません。
例外としては、銅は導電性材料として不可欠であるため、高品質銅は需要が高く価格も高い場合があります。
化学的性質や希少性において違いがあるため、複数の観点で貴金属と卑金属は明確に区別されます。
宝石との違い
宝石は主に鉱物質だけでなく、真珠などの有機質からなる場合もあります。
結晶構造や光学的特性、硬度などが評価基準となりますが、総じて人間が美しさを認める物質といえるでしょう。
宝石と貴金属はジュエリー制作において補完的関係にありますが、物理的・化学的性質・資産価値の評価方法は根本的に異なります。
宝石は硬度が高く傷つきにくい性質が求められる一方で、貴金属は柔らかく加工しやすい延性があるからです。
これらの特性差を生かしてジュエリーを製造します。
資産としての扱いにおいても、宝石は個別性が強く、一点物の性格が評価を左右しやすいです。
一方で、貴金属は地金市場価格が基準となるため流動性や価格透明性が相対的に高いとされます。
以上のことから、貴金属と宝石は本質的に異なるカテゴリーにあるといえるでしょう。
時計・アクセサリー・コインとの違い
時計・アクセサリー・コインは、貴金属が素材として使われる場合と、他素材や複合素材で作られる場合があります。
高級時計・アクセサリーの資産価値は、素材となる貴金属の価値に加え、ムーブメントの精度やブランドの信頼性、製造コスト・デザイン料などが上乗せされ、純粋な金属価値以上の価格が形成されます。
コインは材料が基本的に貴金属のみであるため、基本的には地金価格が基準です。
しかし、アンティークコインのように希少性が認められるコインの場合は、コレクターの収集対象となり、プレミア価値が付くことがあります。
加工品である時計・アクセサリー・コインを貴金属という場合もありますが、資産価値の評価は必ずしも含有している貴金属と一致しません。
貴金属の種類
貴金属の種類について解説します。
- 金(Au)
- 銀(Ag)
- プラチナ(Pt)
- パラジウム(Pd)
- ロジウム(Rh)
- ルテニウム(Ru)
- オスミウム(Os)
- イリジウム(Ir)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
金(Au)
金は原子番号79、元素記号Auの貴金属で、人類が古くから利用してきた素材です。
化学的には非常に安定しており、常温常圧下では酸素や水分と反応しにくく、変色や腐食がほとんど起こりません。
王水(硝酸と塩酸の混合溶液)を除き、溶解が難しいため長期保存に適しています。
物理的には高い延性と展性を示し、1gの金は薄く引き伸ばすと金箔として利用可能なほど伸長性が高いです。
また、良好な電気伝導性を持つため、電子部品やコネクタなどの材料としても活用されます。
融点は約1064℃、密度は約19.32g/cm³と高く、加工性と耐久性が両立します。
ジュエリー用途では合金化して加工し、純度に応じて刻印が施され、見た目の美しさと丈夫さを兼ね備えます。
投資資産としては地金や金貨、ETFなどで取引され、不況時のリスクヘッジ手段とされます。
銀(Ag)
銀は原子番号47、元素記号Agの貴金属で、延性・展性に優れ導電性が極めて高い特徴を持ちます。
化学的には金ほど安定ではないものの、常温常圧下では酸化に強いです。
しかし、硫化による黒ずみが起こりやすいため管理が必要になります。
王水には溶けにくいものの、硝酸には比較的溶解しやすい特性があります。
融点は961℃程度で、密度は約10.49g/cm³と金より小さいです。
しかし、加工性に優れ、多くの工業用接点・導体材料として使われます。
光学的には高い反射率を示し、ミラーや高級カメラ部品などに利用されます。
投資対象としては銀地金やコインがあり、工業需要の影響を受けやすい点が特徴です。
プラチナ(Pt)
プラチナは原子番号78、元素記号Ptの貴金属で、化学的に非常に安定な白金族元素です。
常温常圧下では酸化されにくく、王水以外では溶解しにくい性質があるため、耐腐食性・耐薬品性が高く長寿命用途に適します。
融点は約1768℃、密度は約21.45g/cm³と高く、耐熱性にも優れます。
触媒活性が強いため、自動車用排ガス浄化触媒や化学工業触媒、燃料電池触媒として不可欠です。
ジュエリーでは白銀色の輝きと変色しにくい特性から人気が高く、Pt900やPt1000など純度表記が取り決められています。
医療分野ではプラチナ錯体が抗がん剤として利用される例があり、研究が進展しています。
投資対象としてはプラチナ地金やETF、コインなどがあり、産業需要と同時に宝飾需要にも左右され価格が変動することが特徴です。
パラジウム(Pd)
パラジウムは原子番号46、元素記号Pdの白金族貴金属で、プラチナに似た化学的安定性を持ちながら、融点は1555℃程度とやや低めです。
触媒作用が強く、自動車用排ガス浄化触媒や化学工業プロセス触媒に広く用いられます。
密度は約12.02g/cm³で、加工性に優れ、ジュエリー素材としても利用され、アレルギーが少ない点が好まれます。
工業・宝飾両面の需要により、市場価格は変動しやすいです。
ロジウム(Rh)
ロジウムは原子番号45、元素記号Rhの白金族貴金属で、銀白色の硬く丈夫な遷移金属です。
王水には難溶であり、耐腐食性が極めて高いため、化学工業や自動車触媒用素材として重宝されます。
用途としては排ガス浄化触媒、メッキ材料、光学機器部品、宝飾品の装飾メッキなどがあり、少量でも高い性能を発揮します。
地殻中での存在量は非常に少なく、供給が制約されるため価格は高値で推移しやすいです。
ルテニウム(Ru)
ルテニウムは原子番号44、元素記号Ruの白金族貴金属で、銀白色の硬く脆い遷移金属です。
主に化学工業触媒(アンモニア合成、化学反応促進など)や電子部品、硬質合金の添加材として用いられ、ナノ粒子を用いた触媒研究も盛んです。
展性も一定程度あり、メッキや合金用途にも使われますが、単独利用時は脆いため他金属との合金化が多いです。
特定産業では不可欠な素材ではありますが、供給量が限られるため、価格が高騰しやすくなります。
オスミウム(Os)
オスミウムは原子番号76、元素記号Osの白金族貴金属で、青白い硬くもろい遷移金属です。
用途としては白金族合金の強化材、万年筆のペン先先端、電気接点、耐摩耗部品などです。
非常に高い耐久性が要求される場合に微量添加される貴金属であるため、専門的な用途で使用されます。
地殻中存在量は極めて低く、供給が極端に限られるため、価格は高くなっています。
イリジウム(Ir)
イリジウムは原子番号77、元素記号Irの白金族貴金属で、銀白色の硬く耐食性に優れた遷移金属です。
用途としては高性能スパークプラグ電極、自動車排ガス触媒、化学プラント機器の部品、耐摩耗部品などです。
小片であっても高い耐久性を発揮します。
地殻中存在量は少なく、高価格で取引されますが、極限環境下での信頼性素材として重要視されます。
資産価値のある貴金属は?
貴金属は8種類あり、それぞれに用途があり、高い希少性をもっています。
しかし、一般的に地金市場で取引されている資産価値のある貴金属は以下のとおりです。
- 金
- 銀
- プラチナ
- パラジウム
そのなかでも金は代表的な貴金属として知られており、多くの投資家から魅力的な投資先と考えられています。
金は古来から取引されてきた歴史があり、貴金属としての希少性と需要からその価値が評価されています。
銀は金に次いで投資対象になっているものの、価格変動が激しく投資対象としてはリスクが高いでしょう。
プラチナ、パラジウムは市場規模が金・銀と比較して小さく、安定性に欠ける投資対象です。
各貴金属の代表的なアンティークコイン
最後に、各貴金属で作られた代表的なアンティークコインを紹介したいと思います。
- ウナとライオン金貨
- ゴシッククラウン銀貨
- ニコライ1世 プラチナ貨
- トゥポウ4世戴冠記念パラジウム貨
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ウナとライオン金貨
概要 | 内容 |
発行国 | イギリス |
発行年 | 1839年 |
額面 | 5ポンド |
直径 | 36mm |
重量 | 39.94g |
発行枚数 | 400枚 |
品位 | 916/1,000(金) |
ウナとライオンは、1839年にウィリアム・ワイオンがデザインしたイギリスの5ポンド金貨です。
エドマンド・スペンサーの叙事詩『妖精の女王』に登場するヒロイン「ウナ」をヴィクトリア女王に見立てました。
その傍らに英国を象徴するライオンを配したもので、当時の芸術性や政治的メッセージを強く反映しています。
鋳造は非常に少量行われ、流通用ではなくコレクター向けとされたことから、現存数が非常に少ない金貨です。
そのため、重量約40gで22K(カラット)の金貨の地金価格を遥かに上回るプレミア価値で取引されています。
材質は当時英国金貨に標準採用されていた22Kであり、「91.6%金 +約8.4%の銀・銅など合金」とされています。
硬度と耐久性を兼ね備えつつ金の価値を重視する配合であり、現在ではコレクション用ではなく、日常流通貨幣としての使用にも耐える仕様です。
2019年にはリストライクされた純金(24K)のウナとライオンが発行されています。
世界で最も美しい金貨「ウナとライオン」の歴史と価値についてご紹介!
ゴシッククラウン銀貨
概要 | 内容 |
発行国 | イギリス |
発行年 | 1847年 |
額面 | クラウン |
直径 | 39mm |
重量 | 28.276g |
発行枚数 | 8,000枚 |
品位 | 925/1000(銀) |
グレード | EF |
状態 | Proof |
ゴシッククラウン銀貨は、ゴシック様式を取り入れた装飾的デザインが特徴であり、コレクターの間でゴシクラの愛称で親しまれています。
当時は、建築や美術の分野で中世ゴシック建築を再評価するネオゴシック(ゴシックリバイバル)運動が盛んでした。
この潮流はコインにも及び、より装飾的で中世的雰囲気を帯びた意匠を採用する流れが生まれました。
ヴィクトリア女王在位10周年を祝う新しい銀貨デザインとして、ゴシッククラウン銀貨が採用された経緯があります。
発行枚数はわずか8,000枚と限られていることから、約28gの銀では地金としての価値はほとんどありませんが、高いプレミア価値を持っていることが特徴です。
92.5%の銀含有率は、英国銀貨の伝統的標準仕様であるスターリングシルバーが踏襲されています。
純銀に比べて硬度や耐摩耗性を高めるために銅など他金属を7.5%程度混ぜたもので、日常取り扱いや流通を想定した耐久性を確保するための伝統的配合です。
ゴシッククラウン銀貨とは? 世界のコレクターが愛するコインの魅力をご紹介
ニコライ1世 プラチナ貨
概要 | 内容 |
発行国 | ロシア |
発行年 | 1855年 |
額面 | 12ルーブル |
直径 | 35.75mm |
重量 | 41.41g |
品位 | 950/1,000(プラチナ) |
プラチナ貨はニコライ1世のロシア帝国の時代、ウラル山脈でプラチナが発見されことをきっかけに、貨幣素材として利用する試みがおこなわれました。
1828年には皇帝ニコライ1世の勅令により、3ルーブル、6ルーブル、12ルーブルのプラチナ貨が鋳造されることが承認されました。
その後1830年から1845年にかけて、数年ごとに鋳造がおこなわれました。
しかし、プラチナ貨は当時の市民にとって慣れない素材であったことや重量感による扱いの不便さがあります。
銀貨と見た目で判別がつきにくいことを含めて流通は広まらず実験的要素が強いものにとどまりました。
貨幣として流通させるにあたってプラチナの含有量は95.0%、強度向上のために配合された金属による合金となります。
近年では、地金型コインとしてプラチナ貨が製造されることがあります。
トゥポウ4世戴冠記念パラジウム貨
概要 | 内容 |
発行国 | トンガ |
発行年 | 1967年 |
額面 | 1ハウ |
直径 | 48mm |
重量 | 64g |
発行枚数 | 1,500枚 |
品位 | 980/1,000(パラジウム) |
トンガ王国は世界初のパラジウム貨を1967年に発行し、その中心的コインがトゥポウ4世の戴冠式記念パラジウム貨です。
トンガ王国は各種記念貨を検討し、金・銀に加え新素材としてパラジウムを用いた世界初の鋳造をイギリスに委託して実現しました。
公式に世界初のパラジウム貨とされるコインであり、コイン史や地金市場におけるパラジウム活用の先駆的事例となりました。
当時パラジウムは工業用途中心に知られていた金属で、記念貨に採用されるのは画期的な試みだったからです。
パラジウム含有量が98%と非常に高い合金を採用しています。
世界初のパラジウム貨ゆえに注目を集め、発行当時からコイン収集家や地金投資家の興味の対象となりました。
貴金属を売却できる場所
貴金属を売却して換金できる場所を以下にまとめました。
- 貴金属店
- コイン専門店
それぞれ詳しく見ていきましょう。
貴金属店
貴金属店とは、金、銀、プラチナなどの地金や、ジュエリーを専門に買取・販売する店舗です。
持ち込んだ貴金属をその場で査定し、買取価格を提示してもらえます。
多数のチェーン店や個人経営店があり、実店舗のほか、宅配買取をおこなう業者も増えています。
買取価格の目安は当日の地金価格からわかるため、売却を決める前に提示価格を確認しましょう。
直近の相場と比較して地金価格が安くなっている状態にある場合は、売却を控えたほうがいいかもしれません。
資産性のある貴金属と価値のあるアクセサリーなどは貴金属店で買取を依頼できます。
コイン専門店(アンティークコインの場合)
一方で、アンティークコインのように地金価格よりもプレミア価値が価格を決定する際に重視される場合は、専門店に売却することをおすすめします。
金貨を売却するにあたって、貴金属店がコインのプレミア価値を理解していなければ、地金価格で査定を出す場合があるからです。
単なる貴金属の価値ではなく、コイン固有の価値を査定して買取に出したい場合はコイン専門店に依頼しましょう。
当サイト「コインライブラリー・プリンシパル」では金貨・銀貨・プラチナ貨など、希少な貴金属コインの買取をおこなっています。
来店・オンライン査定、どちらの形態でも売却を受け付けているため、詳しくはこちらのページからお問い合わせください。
まとめ
貴金属は化学的に安定で酸化や腐食に強く、地殻中での存在量が少ないため希少性が高い8種類の金属です。
そのなかでも金、銀、プラチナ、パラジウムなどは、ジュエリーや工業用途で重宝されるだけでなく、投資対象として資産価値を持ちます。
アンティークコインを購入する際は、貴金属の特性とコインの希少性・歴史性を踏まえたうえで選ぶことで、より安心して購入や保有がおこなえるようになるでしょう。