ウィリアム・ワイオンは、イギリスの王立造幣局(ロイヤルミント)の公式主任彫刻師を務めた人物であり、ウナとライオンなど数々の名作となるアンティークコインを生み出した人物です。
ドイツのケルンを源流とする由緒正しき芸術家の家系に生まれ、国立美術学校のロイヤル・アカデミー・オブ・アーツでも華々しい成績を収めた当時のイギリスにおいてエリート中のエリートと呼べる芸術家でした。
彼の遺した作品はアンティークコインとして現在も残っており、ウィリアム・ワイオンの作品は全アンティークコイン・コレクターの憧れとも呼べる存在です。
この記事では、世界的に評価される造幣局の彫刻師「ウィリアム・ワイオン」について解説し、代表作となるアンティークコインについても紹介していきます。
ウィリアム・ワイオンと歴史
画像引用:https://www.royalmint.com/great-engravers/three-graces/william-wyon-ras-early-career-masterpiece/
年号 | 内容 |
1795年 | バーミンガムで生まれる |
1809年 | ピーター・ワイオンに弟子入りする |
1816年 | ロンドンに渡りロイヤル・アカデミー・オブ・アーツに入学、王立造幣局の彫刻助手に任命される |
1828年 | 王立造幣局の造幣局局長となる |
1838年 | ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの学会員に任命される |
1851年 | イギリスのブライトンで死去 |
ウィリアム・ワイオン(William-Wyon)は、彫刻を生業として多数の有名な彫刻家を輩出してきた一族に生まれ、自身もまた王立造幣局(ロイヤルミント)の公式主任彫刻師を務めた人物です。
アンティークコインの世界ではトップクラスの知名度を持つ彫刻家であり、彼がデザインを手がけたコインはその希少性の高さから高値で取引されています。
アンティークコイン・コレクターであれば知らない人はいないほどの偉人であり、これからアンティークコインの収集を始めるならウィリアム・ワイオンの凄さを理解しておきたいところです。
ウィリアム・ワイオンについて歴史を振り返っていきましょう。
芸術家の家系に生まれ彫刻師を志す
ウィリアム・ワイオンは、彫刻を生業とする芸術家の家系に生まれており、彫刻師を志すことは自然といえるものでした。
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ時代では、ローマ神話の女神ケレースをモチーフにした作品で金賞を受賞しています。
その後も、1828年に造幣局局長に任命されて以来、1851年に死去するまで役職を全うしました。
後世ではアンティークコイン・コレクターを中心に高く評価されていますが、彼だけが特別であったわけではありません。
王立造幣局局長にはワイオン家のトーマス・ワイオンが、ウィリアム・ワイオンよりも前に選ばれています。
優秀な家系に生まれたことで、彫刻家としての成功に限りなく近い位置からスタートしましたが、周りの環境ゆえに比較対象の高さから才能や技術が飛びぬけていたとは思われていませんでした。
それどころか、生前は彼の才能を疑う声もあったといわれており、最終的に主任彫刻家に昇進したのはワイオンでしたが、彼に迫る実力を持ったライバルと言われたピストルッチのほうが高く評価されたこともありました。
サクセスストーリーとしてはドラマ性が少ないことから一般的に偉人として後世に歴史が語られることが少なく、アンティークコインを知らなければ話題に上がることはない人物です。
しかし、アンティークコイン・コレクターの間ではその作品が後世で高く評価されており、伝説的な彫刻師として名が知られています。
世界最初の切手「ペニー・ブラック」の誕生
画像引用:https://www.postalmuseum.jp/column/collection/first-stamp.html
アンティークコイン以外でウィリアム・ワイオンを知っている人がいるとすれば、世界初の切手であるペニー・ブラックの制作者であることを知っている人かもしれません。
イギリスで最初に発行された黒いインクを使用した1ペニーのペニー・ブラックの切手は、15歳当時のヴィクトリア女王のメダルを造るために彫られた原形画が切手のデザインにも採用されました。
発行枚数は十分にあるものの、イギリスの君主の中でも人気の高いヴィクトリア女王の若い頃の姿を描いており、世界初の切手というインパクトからも人気が高いです。
日本でもその製作者としてウィリアム・ワイオンの名が知られています。
ヴィクトリア女王について詳しく知りたい方はこちらの記事をチェックしてください。
ヴィクトリア女王のおすすめ金貨・銀貨7選 ウナとライオンを含むコインを紹介
幻のアンティークコイン「スリーグレイセス」の誕生秘話
画像引用:HERITAGE AUCTION
スリーグレイセスはウィリアム・ワイオンの初期の作品であり、オリジナルのコインも50枚程しか鋳造されず、実際に流通することがなかったため、幻とも呼べるほど希少性の高い人気のアンティークコインとなっています。
1817年に試鋳銀貨が製造されたこちらの銀貨は、スリーグレイセスと呼ばれるゼウスの娘のアグライア、タレイア、エウプロシュネの3人を描いています。
そして、スリーグレイセスをそれぞれイングランド、スコットランド、アイルランドの連合国にあてはめ、イギリスの結束を表現しました。
しかし、このデザインの金貨・銀貨は実際に流通することがなく、スリーグレイセスのデザインが評価されたのは後世になります。
スリーグレイセスの金貨は銀貨よりも数が少ないといわれていますが、その中の3枚は博物館に保管されています。
2018年には幻の4枚目が市場に流通し約1億円で落札されました。
2020年にはグレートエングレーバーシリーズとして、王立造幣局からリストライクされ、スリーグレイセスの金貨・銀貨が発行されました。
世界中から注文が殺到したことでわずか20分ですべてのスリーグレイセスのコインが売り切れたといわれています。
ウィリアム・ワイオンは生前も王立造幣局の造幣局局長であったことから評価された人物ではありましたが、後世における再評価は実力が疑われたことがあった生前とは比較にならないほどです。
ウィリアム・ワイオンが後世に与えた影響
ウィリアム・ワイオンの作品であるアンティークコインは、世界一美しい金貨といわれるウナとライオンをはじめ高額で落札されることが多く、切手収集を含めてアンティークコイン業界を中心に影響を与えています。
ヘリテージオークションでは2億7450万円で落札されたことがあり、出品されるたびに落札価格を更新し続ける金貨となっています。
コインの価格はウィリアム・ワイオンの作品であるというだけでは決まりませんが、わずか400枚の発行枚数であることから希少性が高いことから、人気の金貨であることを踏まえると価格が上昇しやすい背景があるといえるでしょう。
他のウィリアム・ワイオンのアンティークコインもデザインの秀逸さと希少性を両立したコインが現存しているため、高額落札事例が多いことで知られています。
また、価格の上昇率が高いことからコレクターだけでなく、アンティークコイン投資においても注目されています。
アンティークコインにおいてトップクラスの知名度を持ち、人気の高いコインはウィリアム・ワイオンが手掛けたウナとライオンをはじめとする主要な作品であることに異論を持つ人は少ないといえるでしょう。
ウィリアム・ワイオンのおすすめアンティークコイン
ウィリアム・ワイオンの凄さは、言葉で語るだけでなく、実際に作品を見たほうがわかりやすいと考えます。
ウィリアム・ワイオンが手掛けた作品であるおすすめのアンティークコインを紹介します。
- ウナとライオン 5ポンド金貨 1839年
- ゴシッククラウン銀貨 1847年
- 英領インド モハール金貨 1841年
- ヤングヘッド 1ソボレン金貨 1862年
- スリーグレイセス 500ポンド金貨 2020年
ウナとライオン 5ポンド金貨 1839年
概要 | 内容 |
発行 | イギリス |
発行年 | 1839年 |
額面 | 5ポンド |
直径 | 36mm |
発行枚数 | 400枚 |
状態 | Proof EF+/AU |
1837年、ヴィクトリア女王が新たに即位したことを記念して、2年後に発行された金貨がウナとライオンの5ポンド金貨です。
こちらはコレクション用に鋳造されていることから5ポンド金貨以外に発行されておらず、発行枚数は400枚と限定的です。
エドマンド・スペンサーの叙事詩「妖精の女王」の主人公であるウナがライオンとともに歩く様子を描いていますが、ウナはヴィクトリア女王、ライオンはイギリスそのものを象徴しています。
物語を通して独自の表現をするウィリアム・ワイオンの手法の中でもウナとライオンのデザインは非常に完成度が高いことから、彼の最高傑作との呼び声も高い金貨です。
高価で手に入れることが難しい金貨ではありますが、入手することができれば家宝になることでしょう。
ゴシッククラウン銀貨 1847年
概要 | 内容 |
発行国 | イギリス |
発行年 | 1847年 |
額面 | クラウン |
直径 | 38mm |
重量 | 28.2759g |
発行枚数 | 8,000枚 |
品位 | 銀925/1000 |
ゴシッククラウン(ゴチッククラウン)銀貨は、日本のコレクターの間ではゴシクラの愛称で親しまれるウィリアム・ワイオンの作品です。
ウナとライオンが世界トップクラスの金貨であるなら、ゴシッククラウン銀貨は世界トップクラスの銀貨といえます。
発行枚数も金貨より希少性が低いことが多い銀貨でありながら、1847年にわずか8,000枚しか発行されていません。
ヴィクトリア女王のヤング時代の肖像を描いており、ウィリアム・ワイオンによる緻密なデザインが魅力であり人気を集めています。
発行年が1847年と死去する4年前であることから、ウィリアム・ワイオンの晩年の傑作といわれることがあります。
英領インド モハール金貨 1841年
概要 | 内容 |
発行国 | インド(英領インド) |
発行年 | 1841年 |
額面 | 1モハール |
直径 | 26mm |
発行枚数 | 442,000枚 |
状態 | -EF |
ヴィクトリア女王はインド皇帝でもあったため英領インドの時代に発行された1モハール金貨です。
こちらのデザインは、ヴィクトリア女王も裏面のライオンもすべてウィリアム・ワイオンが手掛けています。
ただし、発行国がイギリスでないことや発行枚数が多いことから、ウィリアム・ワイオンのアンティークコインの中では知名度が低くなっています。
そのため、ウィリアム・ワイオンが手掛けた金貨の中では相対的に入手しやすいコインといえるでしょう。
ヤングヘッド 1ソボレン金貨 1862年
概要 | 内容 |
発行 | イギリス |
発行年 | 1862年 |
額面 | 1ソボレン |
直径 | 22mm |
発行枚数 | 7,836,000枚 |
状態 | VF |
こちらの金貨はウィリアム・ワイオンの死後に発行された金貨になりますが、ヤングヘッドのヴィクトリア女王の肖像は彼によって手掛けられています。
発行枚数も非常に多いことからウィリアム・ワイオンが手掛けた金貨の中でも入手難易度は低くなっています。
聖ジョージの竜退治と、こちらの金貨のデザインである英国紋章の2タイプのバージョンが発行されました。
スリーグレイセス 500ポンド金貨 2020年
概要 | 内容 |
発行国 | イギリス |
発行年 | 2020年 |
額面 | 500ポンド |
直径 | 50mm |
重量 | 156.295g |
発行枚数 | 160枚 |
品位 | 999/1000金 |
状態 | Proof FDC |
2020年にリストライクされた幻のコインと呼ばれるスリーグレイセス金貨です。
ウィリアム・ワイオンが手掛けたデザインは、スリーグレイセスを含めてリストライクされています。
当時の三美神のデザインをそのままに当時の君主であったエリザベス2世の肖像を描いていますが、表面の肖像に関してはもちろんウィリアム・ワイオン作ではなく、ジョディ・クラークがデザインしています。
オリジナルの作品ではないものの発行枚数は160枚と希少性が高いことから、現在も高値で取引されている金貨です。
まとめ
ウィリアム・ワイオンは、イギリスだけでなく世界中のアンティークコインにおける代表的な彫刻家であり、現在も多くの作品が高値で取引されています。
アンティークコイン・コレクターはもちろん、アンティークコイン投資家も知っておくべき人物であり、ウナとライオンをはじめとする数種類の代表作は覚えておきましょう。
実際に入手することは様々な理由から難しいかもしれませんが、当サイト「コインライブラリー・プリンシパル」でもウィリアム・ワイオンの作品は入荷経験があるため、入手できる機会を逃さないために定期的にチェックしてください。