いつもの通り、第4章のクイズの回答から始めましょう。
クイズ(第4章クイズ)金利は「お金の賃借料」と学びました。この賃借料が値上がりすると「金利」は上がります。金利が上がると、困る人(損をする人)はどういう人でしょう。
ヒント:住宅ローンがある人はどうでしょう?
回答変動金利型の住宅ローンを持っている人は、次回の利息の支払いから適用される金利が高くなる可能性があり、利子の支払い額が増えてしまい困ります。一方、固定金利型の住宅ローンを組んでいる人は、世の中の金利がどんなに上がっても、困りません。
他に、金利が上がると困る人は、事業の運転資金を銀行から借りている中小企業は、通常変動金利が適用されますので、次回の継続借り入れ(ロールオーバー)の際、支払い利子が増え資金コストが上がり事業採算が悪化し困ります。
それでは、本日のテーマ、「債券と金利の関係は?」に入ります。金利の本質を理解するうえで、最重要の基本事項です。しっかりと学習していきましょう。
債券とは
債券を発行する人(「発行体」といいます)
個人は、持ち家を購入する際に住宅ローンを組んで、足りないお金を銀行から借ります。
同じように、企業も事業を運営していくために手元のお金では足りない場合、銀行からお金を借ります。
「第2章金融って何?」で学んだ通り、銀行が家計セクターからお金を集め、企業セクターにお金を貸して、経済を円滑にする仕組みを間接金融といいます。
同時に、企業(主として信用力のある大企業)や政府・地方自治体は、“債券”という借用書(「有価証券」といいます)を発行し、余っているお金を運用(投資)したい人から、直接お金を借りられます。この仕組みを直接金融といいます。
そして、債券を発行してお金を借りる(調達する)人を債券の発行体といいます。
国債の券面形式(有価証券)
元来、債券はその名の通り、上質の紙の本体に発行体の名称、金額(額面)、償還日(借入の期限)等が記載されています。本体の下部には、利子の金額とその利子が支払われる日付が記載されたクーポン券が、発行から償還までの間に支払われる回数分ついています。
以下は、利付国債(現物)2年債のイメージ図です。
現在では、ほぼすべての債券が、証券保管振替決済機構や国債振替決済制度の導入により、電子記帳に代わり、証券の現物にお目にかかる機会はありませんが、債券の本質を理解するために、敢えて原点に返り、国債現物の例を以下ご説明します。
① 国債は政府により発行されると、上記のイメージの債券(有価証券)が発行され、購入者(投資家等)に交付されます。
② 債券には価格があります。 「額面100円に対しいくら」で表し、単価と呼ばれます。単価=100円で発行された場合を「パー」、100円超を「オーバーパー」、100円未満を「アンダーパー」といいます。
③ 購入者は、償還期限前であっても、いつでも市場価格で、銀行・証券会社等の窓口にて債券を売却することができます。市場価格は、売却時の金利状況に応じて変動し、「額面100円に対しいくら(単価)」で銀行・証券会社等の店頭に表示されます。
④ 期日が到来したクーポン部分は、切り取って銀行等の窓口で現金に交換することができます。
⑤ 償還期限まで保有した場合、債券と交換に、銀行等の窓口で額面の金額(単価100円)が払い戻されます。
本稿では、上記の「利付国債 現物イメージ」の国債を設例として説明していくことといたします。
【設例国債の発行条件の詳細(架空)】
・発行体:日本国政府
・額面:1,000,000円
・期間:2年(2020年10月20日発行、2022年10月20日償還)
・クーポン:5,000円
・利払い:年2回
・発行価格:額面100円に対して100円(パー発行)
・償還価格:額面100円に対して100円
債券投資で得られる利益
利子収入
債券に付いているクーポンから得られる収入。クーポン1枚分の利益を得るためには、それぞれ利払いの期限まで、債券を保有しておく必要があります。
設例の国債は、年2回払いとなっていますので、半年保有ごとに5,000円の利子収入を得ることができます。
利払い日と次の利払い日の間に売却した場合は、売却日に、国債の保有期間分の利子(経過利子といいます)を売却相手から受け取る決まりになっています。
売買損益、あるいは、償還損益
国債のように流動性の高い債券は、いつでも市場価格で売り買いが可能です。買った時の価格と売った時の価格の差が売買損益となります。買ったときの価格より高い価格で売却した場合は、プラス(益)となりますが、買った時より安い(低い)価格で売却するとマイナス(損)となります。
また、買った債券を償還まで保有した場合、償還価格(一般的には100円)と買った時の差額が償還損益となります。
債券投資に関する合計損益
利子収入と売買(償還)損益(上述)の2つが債券投資によって発生する損益となります。
合計損益=利子収入+売買損益(or償還損益)
※ 通常、利子収入はマイナス(損)となることはありませんが、売買損益或いは償還損益はマイナス(損)になる可能性があります。したがって、合計損益もマイナス(損)になることもあります。
債券投資における金利のいろいろ
利率/表面利率/クーポンレート(年利)とは
「利率」、「表面利率」または「クーポンレート」(以下本稿では「利率」に統一します)とは、額面金額対する1年分支払われる利子の大きさの比率を%表示される金利の仲間のひとつです。
債券投資をした場合、特別な他の条件が無い限り、発行から償還までの間、常に一定です。
上記の設例における国債の利率は、10,000円(5,000円×2回)/1,000,000=0.1% と計算されます。
利回り(年利)とは
債券投資を行った場合の投資元本(単価:購入価格)にたいする1年分の合計損益(利子収入+売買損益(or 償還損益))の大きさの比率を%表示される金利の仲間です。
売却者にとっての利回り=「所有期間利回り」
【計算式Ⅰ】
所有期間利回り={表面利率+(売却価格-購入価格)÷所有期間(年)}÷購入価格×100表面利率
売却価格:変動(売却時の市場の状況で決まる)
所有期間:所与
購入価格:所与
したがって、売却価格によって、所有期間利回りは変動します。
計算例1年前、上記の設例の国債を発行価格=100円で購入した投資家Aさんが、残存期間が1年となった国債を、既発債市場を通して、投資家Bさんに100.50で売却した場合は、
所有期間利回り={0.1%+(100.50円-100)円÷1年}÷100円×100=0.15%
と計算されます。
購入者が償還まで保有した場合の利回り=「最終利回り」
【計算式Ⅱ】
最終利回り={利率+(100(償還価格)-購入価格)÷残存期間(年)}÷購入価格×100
利率:所与(一定)
購入価格:変動(購入時の市場の状況で決まる)
残存期間:所与
償還価格:100(所与)
したがって、購入価格によって、最終利回りは変動します。
計算例投資家Bさんが、上記の設例の残存期間1年の国債を、投資家Aさんから購入し、償還期限まで保有した場合は、
最終利回り={0.1%+(100円-100.5)円÷1年}÷100.5円×100=0.04975%
と計算されます。
既発債市場(セカンダリーマーケット)で売買成立した利回り=「市場利回り」
既発債市場で売買が成立した際の利回りを市場利回りと呼びます。上述の設例で、投資家Bが購入した場合の最終利回りが市場利回りとなります。
すなわち、売買が成立した時、残存期間が1年の国債の市場利回りは、その国債の最終利回りに一致します。
設例の場合、0.04975%が市場利回りとなります。
債券市場価格と利回りの関係
ある時点の債券の最終利回りの計算式を再度見てみましょう。
債券市場で成立した売買価格(購入価格)が市場価格であるとすると、その売買価格から逆算される最終利回りは、市場利回りということになります。
最終利回り=市場利回り={表面利率+(100-市場価格)÷残存期間(年)}÷市場価格×100
表面利率は一定、残存期間はある時点では一定(所与)となります。
従って、市場価格が上昇すると、分子のマイナスが大きくなり最終利回りは小さくなり、市場価格が低下すると、分子のマイナスが小さくなり最終利回りは大きくなります。
ここで、重要な債券の利回りと価格の関係が導き出されます。
債券の利回りと価格の関係債券利回りが上昇すると債券価格は下落する
債券利回りが低下すると債券価格は上昇する
市場金利と債券市場利回りの関係
短期金融市場金利
円の短期市場金利の指標となる金利は、銀行間の資金の過不足を調整する円資金市場(マネーマーケット)で決まります。
短期(通常1年未満)的に資金が不足している銀行は、市場からお金を調達(借りる)し、資金が余剰な銀行は市場にお金を出す(貸す)取引を日々行っています。
ここで取引される金利が、短期市場金利を形成します。
特に、重要な機能を発揮するのが、日本銀行(日銀)です。日銀は、金融政策を実現するために、金利水準を定め、市場がその水準を維持するように、資金の需給を調整しています。
中長期市場金利
一方、中長期金利の指標となる金利は、残存期間(償還日までの期間)が2年~10年の国債の利回りです。
特に、比較的直近に発行された10年国債が、指標銘柄(ベンチマーク)として市場で活発に価格形成され、そこから導き出される利回り(最終利回り)が、円の代表的長期金利として、いろいろな金利の基準となっています。
長期金利と10年国債価格の関係
一般的に、円の長期金利というと、国債10年ものの市場利回りが基準となっています。
POINT国債10年の買い圧力が強く価格が上昇しているということは、長期金利が低下していることを意味し、
一方、国債10年の売り圧力が強く価格が下落しているということは、長期金利が上昇していることを意味しています。
この関係は、金利を理解する上で大変重要な関係となります。しっかり理解しておいていただきたいと思います。
最後に第5章のクイズです。
クイズCさんは、利率(年利)1%の新発の10年国債を価格100円(パー)で購入しました。
その5年後、国債市場では、5年債の利回りが0.5 %(年利)、10年債の利回りは1.0%(年利)で売買されています。
Cさんが10回目の利払いを受けた直後(5年経過後、残存年数5年)に、この国債を売る場合の価格として、最も近いものはどれでしょうか?
1.102.435
2.100.000
3.98.512
回答は次章で!
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