【第5章】物価の状況を知る ~消費者物価指数、企業物価指数と企業向けサービス価格指数

 物価とは

物価とは何か

渡辺努東京大学教授は、その著作である「物価とは何か」において、物価安定の理想の姿を「蚊柱」に例えて以下のように説明しています。

「遠くから見ると蚊柱は一定の場所にとどまる一つの塊に見えるが、近づくと見えてくるのは個々の蚊が活発に動き回る姿である。個々の蚊は自由奔放にあちこちと飛び回っているが全体としては調和があり、柱を構成している。つまり個は動的だが、全体は安定している。」

現代社会において、企業活動や日常生活で購入する多種多様な商品やサービスには貨幣価値(日本であれば円)で表される価格があります。
そして、その個々の商品やサービスの価格は、活発な経済活動のなかで、時事刻々と価格変化するモノもあれば、不変のモノもあります。
たまたま、ある商品を購入したとき、値上がりしていたとしても、もしかしたら、別のなにかは値下がりしているかもしれません。

マクロ経済(物事を巨視的、包括的に捉えて見ていくこと)の分野では、社会全体の商品やサービスの総合的な価格変化に注目し、それが上がっているか、下がっているかで、「物価」が上がっているか下がっているかを判断します。つまり、一つ一つの蚊の動きではなく蚊柱の動きに注目して、物価の状況を判断します。

物価指数について

「物価指数」とは、基準となる年を決め、その年の多種多様な商品やサービスをサンプリングし、その売買数量などを勘案(ウエイト付け)し平均した物価の大きさを100とし、それに対して上昇・下落の比率をみる数量的指標です。
日本における代表的な物価指数として、消費者物価指(CPI)、企業物価指数(CGPI)及び企業向けサービス価格指数(SPPI)があります。
それぞれについて、以下もう少し詳しく説明してまいります。

日本の代表的な物価指数

消費者物価指数(CPI:Consumer Price Index)

  •  作成部署:総務省統計局
  • 作成周期:月次
  • 小売段階の財及びサービスの物価の動き、すなわち日常生活で消費者が購入する商品の価格の動きを総合して見ようとするものです。
    日常購入する食料品、衣料品、電気製品などの商品の価格の動きのほかに、家賃、通信料、授業料等のサービスの価格の動きも含まれます。
  • インフレを計る尺度の統計です。
  • 政府の経済政策日銀の金融政策を的確に推進する上で極めて重要な指標であり、「経済の体温計」とも呼ばれています。
  • 2013年政府及び日本銀行の共同声明において、物価安定の目標として消費者物価指数の前年比上昇率で2%とすることが掲げられています。
    つまり、日本銀行が金融 政策を決定する際には、消費者物価指数が重要な判断材料の一つとなっています。
  • 金利・債券市場、株式市場、外国為替市場においては、マーケットを動かす最重要の指標として注目度が高い経済指標です。
  • 公的年金の給付額などを 物価の動きに応じて改定するための算出基準となっています。
  • トレンドを知るためには、季節要因等で短期的に変動の激しい生鮮食料品等を除く指数(コア指数)の動きに注目します。
    以下の消費者物価指数の推移グラフ参照下さい。

企業物価指数(CGPI)

  •  作成部署:日本銀行調査統計局
  •  作成周期:月次
  • 企業間で取引される財に関する物価の変動を示す指数です。
    生産者から家計に直接販売される商品を除いた財全般(電力、ガス、工業用水などを含む。)が対象範囲となります。
    土地、建物など取引額が推計できない商品や、中古品などは対象から除かれます。
  • 生産者出荷段階を中心に、企業間で取引される価格が調査され、指数が作成されます。

企業向けサービス価格指数(SPPI)

  • 作成部署:日本銀行調査統計局
  • 作成周期:月次
  • 企業間で取引されるサービスの価格変動を示す指数です。 その主な目的は、企業間で取引されるサービスに関する価格の集約を通じて、サービスの需給動向を把握し、景気動向及び金融政策を判断するための材料を提供することにあります。
  •  国内のサービス提供者(生産者)と国内企業との間で取引されるサービス(国内取引サービス)を対象とし、原則、サービスの提供者(生産者)段階における価格(生産者価格)を調査しています。個人向けサービスは対象外としています。
    また、継続的に信頼性のある価格を調査することが困難で、かつ採用品目の中に、属性の類似するサービスや価格動向を近似できる適当なサービスがないもの(金融仲介、卸小売など)については、対象外としています。

物価指数の見方

企業物価指数/企業向けサービス価格指数(以下「企業物価指数等」と呼ぶ)と消費者物価指数は、トレンド的には同方向に向かう傾向にありますが、相互に複雑に関係しあっているため、それぞればらばらな動きを示すことがあります。
一般的には、企業物価指数の変動は、消費者物価の変動に比べ大きく、ボラティリティが大きい傾向がみられます。
10年間の推移グラフ(企業物価指数 VS 消費者物価指数)をご参照下さい

外国為替相場の影響

円安に動くと輸入物価が上昇し、企業物価指数に即反映します。一般的には消費価格に転嫁されることになり、消費者物価指数も上昇します。
逆に、円高に動くと輸入物価が下落し、企業物価指数に即反映し、価格転嫁が進めば、消費者物価も下落していきます。

資源・エネルギー価格の影響

輸入物価の動きの3割を占める石油・石炭・天然ガス等の価格が上昇すると、企業物価指数も即座に上昇することになります。
為替相場の影響と同様に、これら上昇分はいずれ、消費者価格に転嫁されることになり、消費者物価指数も上昇します。

景気過熱の影響

消費需要が旺盛となり、生産が追い付かない状況が続けば、財やサービスの価格が上昇し、消費者物価指数が上昇します。
供給が追い付かない状況が続くと、原材料不足により企業間の取引価格が上昇する結果、企業物価指数も上昇します。

景気後退の影響

消費が減少し、財・サービス価格は低下します。意図せぬ在庫がたまり、生産活動が低迷してくると、原材料等の企業間取引が減少し、企業物価指数も下落していきます。

 

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