上場企業の自社株買いの功罪

上場企業が、自社株式を買い戻す(自社株買い)動きが活発化しています。

日経新聞の報道によると、上場企業が自社株買いの限度額として、2023年中に取締役会決議した取得枠の合計が、約9.3兆円にのぼり2年連続で過去最高となりました

本稿では、
● そもそも自社株買いとは何か
● 上場企業が自社株買いを活発化している理由は何か?
● 自社株買いは、投資家にとって得か損か?
● 自社株買いの活発化の功罪とは
について、以下解説していきます。

上場企業の自社株買いとは

一般的な上場企業の株式発行による資金調達

会社は、事業を拡大するために、証券取引所に上場し未公開株式を公開(IPO)したり、増資により新規に株式を発行したりすることで、株式市場を通じて、不特定多数の一般の投資家から、会社が返済する必要のない資金を調達します。
会社が安定的に収益を上げられるようになると、その利益の一部を株主に還元するために配当を行うと同時に、将来の事業拡大のため、その利益の残りを社内に積み立てておきます。これを内部留保と言います。
そして、事業拡大の機会が到来した際には、内部留保を原資とし、新たな事業展開に必要な設備等への投資を行います。

上場企業の自社株買いとは

上場企業が株式公開により証券市場に放出した株式や、増資により新たに発行した株式は、一般的には、不特定多数の投資家 (※1)等により保有されています。
         (※1)日本の企業の一部は、企業相互で政策的に株式を持ち合う慣習があり、こうした株式は株式市場では流通していません。
自社株式買いとは、自社の株式を、自らが市場を通じて買い戻す行為のことをいいます。

買い戻す方法として、主として以下2つが挙げられます。

①  TOB(Take Over Bit:株式公開買付)

株式の買い付期間や、買い取価格取得目標株数などの条件を公開し、不特定の投資家から株式を買い集める方法です。
通常、時価に比べて高めの買取り価格を設定します。

②  証券会社を通じて、株式市場での不特定の売手から買う

市場時価で買うことになりますが、大量の取引の場合は、マーケットを混乱させるリスクがあります。

上場企業が自社株買いを実施する目的

自社株の価値を高め、株価下落の防衛、或いは株価上昇の可能性を高めるため

一義的には株主の利益を守ることが目的となります

① 自社株買い自体、株式市場での当該株に対する需要増となるため、株価上昇の圧力となります。

株式市場において、株価は、その株式に対する需要(買い)と供給(売り)の関係で決まります。
すなわち、買いたいと思っている人達の株式数量が、売りたいと思っている人達の株式数量より多ければ、価格は上昇していきます。(市場の原理)

② 投資家が注目する以下の財務指標が改善するため、投資家の買い意欲を高めることになります。

●  ROE(Return on Equity:自己資本利益率)の上昇

  • ROEとは、投資家が投下した資本に対し、企業がどれだけの利益を上げているかを表す財務指標です。
  • ROEが高いほど経営効率がよいことを意味します。
  • 自社株買いにより自己資本が減少するため、ROEは上昇します。

● PER(Price Earnings Rate:株価収益率)の低下

  • PERとは、その企業が稼いだ1株当たりの利益が、株価の何倍にあたるかを示す指標
  • 一般的に、市場平均との比較や、その企業の過去との比較において、現在の株価の割高/割安を判断する一つの目安になります。
  • 例えば、PERが市場の平均値より低い場合は、現在の株価が割安であると判断され、投資家の購買意欲を高めることになります。
  • 自社株買いにより発行済み株数が減少するため、純利益が不変であれば、1株当たりの純利益(ESP=純利益/株数)は増加するため、PERは低下します。

敵対的買収に対する防衛策

自社が買収されることを望まないにもかかわらず、株式市場で一方的に自社の株式を買い集められること(敵対的買収)を防ぐために、市場に流通する自社株の絶対量を減らす目的で、自社株買いをおこなう場合があります。

 ストックオプションとして利用するため

従業員に対する報酬制度の一つとして、自社株のストックオプションを従業員に付与する制度を採用した場合、その原資となる自社株式を前もって市場から買戻しておく場合です。
従業員に対するストックオプションによる報酬制度は、会社の業績が上がり、株価が一定以上になれば、従業員の受け取る報酬額も増えるしくみとなっていて、従業員の働くモチベーションを高める効果があります。

自社株買いの功罪

自社株買い実施企業とその投資家のメリット・ディメリット

上述の通り、自社株買いは、投資家が注目するROEやPER等の企業の財務指標の改善に資することから、株価を上昇させる圧力が働きます。
自社株買いを実施した企業の期待通り自社株価が上昇すれば、その投資家にとって歓迎すべきこととなります。
また、企業側においても、自社株買いにより、発行株式数が減り、それだけ配当負担が減るというメリットもあります。

一方、無理やりな過度の自社株式買いは、手元資金を消費することから、資金繰りを悪化させるリスクや、自己資本の減少による対外的な信用力の低下を招くリスクもあります。

自社株買い活発化の功罪

自社株買いの原資は、企業が長年にわたり、積み上げてきた利益の内部留保(利益剰余金)から拠出されます。
最新の厚生労働省「企業統計調査」によれば、日本企業全体の内部留保額は過去最高の555兆円に達しています。
内部留保は、企業が毎期儲けた利益から、法人税と配当金に充てた残りを積み立てたものです。
成長企業であれば、それらを再投資し、将来の収益を生む資産として活用されているはずです。

収益の株主還元という名のもと、目先の株価対策や配当コスト削減のため、将来の成長に繋がる再投資を怠り、自社株買いを優先していたとしたら、本末転倒な行為といえるかもしれません。
また、ストックオプション行使を有利にするために乱用されるようなことは、株主の不利益となります。

現に、アメリカでは、2022年に成立したインフレ抑制法(2023年施行)により、上場企業が自社株買いを行った場合、買い付け金額の1%を税として徴収するという新たな税制が設けられました。
これは、上場企業は自社株買いをするよりも、人的資本投資や研究開発投資など、企業の長期的な成長を実現するために資金を投じるべきであるとの政策です。

最近の日本における自社株買いの活発化により、株式市場は短期的に需給が引き締まり、株価が上るというシナリオは、必ずしも日本経済の持続的成長と整合的ではないことを、投資家及び市場関係者は認識しておく必要があることを指摘しておきたいと思います。

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