「為替相場」を動かす要因を探るⅣ~ 為替相場を決定するファンダメンタルズ要因とは何か?

為替相場を決定する要因

以下、中長期的視点から、為替相場の水準或いはトレンドについて、経済の基礎条件(ファンダメンタルズ)から分析していく諸説をご紹介していきます。
為替相場の動きを分析する道具として、チャート等を用い過去の法則から将来を予想するテクニカル分析と合わせ、市場参加者にとって不可欠なものとなっています。

経済成長率が高い国の通貨は相対的に強くなります(価値が上がる)

本稿第1章で示したとおり、先進自由主義国で経済基盤がある程度整っていて、為替管理規制のない国家間においては、経済力の強い国の通貨価値が相対的に上昇し、経済力の弱い国の通貨価値が相対的に低下していきます。

経済力が強いか弱いかを計る経済ファンダメンタル指標としてGDP(国内総生産)成長率(前年と比べ増加或いは減少した比率)を当てはめることができます。変動相場制移行後1990年代までの急激なドルに対する円高進行は、日本経済成長率がアメリカの経済成長率を凌駕していたことにその根本原因があるといえます。

貿易黒字は円高要因、貿易赤字は円安要因となります

輸出はモノを売りその対価を受け取る取引で、輸入はモノを買いその対価を支払いう取引です。

第4章で述べた通り、全世界の貿易決済の4割はドルとなっています。特に、日米貿易において、輸出の86%、輸入の75%がドル建て(国税庁2021年)となっています。すなわち、日本の輸出入の対価は大半がドル建てであるため、為替取引が発生することになります。一方、米国では、為替取引を必要としない場合の方が圧倒的に多く発生します。

日本は、貿易立国として、長らく貿易黒字が恒常的に続いていましたが、2011年~2015に赤字に転じ、日本の貿易に構造的変化が生じていると言えそうです。

【貿易収支と円相場推移】

日本の輸出入企業を考えてみると

輸出取引:輸出金額をドルで受け取るため、ドルを売る必要がある。
輸入取引:輸入金額をドルで支払うため、ドルを買う必要がある

日本の貿易収支(月次 財務省「貿易統計」)からわかること

貿易収支=輸出―輸入>0 貿易黒字 円高要因
貿易収支=輸出―輸入<0 貿易赤字 円安要因

【図2 日本の貿易収支と為替相場】

投資資金が集まる(流入する)国の通貨は強くなる

【図3 日本の資本収支と為替相場】

対外投資の増加→資金の流出超→円安要因
対外投資の減少→資金の流入超→円高要因

対外間接投資(※1)対外直接投資(※2)
(※1)対外間接投資:日本の投資家が海外の外貨建ての債券や株式(外貨建て証券等)を購入したり売却したりすること(対外証券投資ともいう)
(※2)対外直接投資:日本の企業が海外の企業を買収したり、生産設備などに投資したりすること

対内投資の増加→資金の流出超→円高要因
対内投資の減少→資金の流入超→円安要因

対内間接投資(※3)・対内直接投資(※4)
(※3)対内間接投資:海外の投資家が日本の円建ての債券や株式(円建て証券等)を購入したり売却したりすること(対外証券投資ともいう)
(※4)対内直接投資:海外の企業が日本の企業を買収したり生産設備などに投資したりすること

内外金利差 高い金利の通貨の価値が上がる

このところの急激な円安の原因となっているのが、日米の金利差です。
一般的に、金利の低い通貨から、金利の高い通貨へ資金が流れ、金利の高い通貨の価値が上がります。

【図4 内外金利差と為替相場】

現在(2022年9月時点)のドル円相場は、様々の思惑をもつ投機筋の動きが活発化していて、当面は、波乱相場(相場の乱高下)がつづくもとと思われます。

インフレ率が高い通貨は相対的に低くなります

購買力平価説とは

同一のモノの値段はどこの国においても同じである(一物一価の法則)という経済原則論に立脚した為替相場の考え方です。

【表4 購買力平価説 モデル 】

日本米国為替レート
インフレ率(仮定)2%5%
現在の値段(仮定)1,000円7.4ドル135.00円 
1年後の値段
(理論値)
1,020円
=1,000×(1+0.02)
7.7ドル
=7.4×(1+0.05)
132.24円
(=1,020/7.7)

  もし、購買力平価説が成り立つとすると、上述の表が示すように、1年後の為替レートは132.24となります。
すなわち、米国は日本に比べてインフレ率が高い前提ですので、ドルは円に比べ相対的に価値がさがり、円高に進みます。

(参考) ビックマック指数(イギリスの経済誌「エコノミスト」の開発した経済指数)

世界各国で販売されているマクドナルドのビックマックの価格と為替相場を比較し指数化したもの。それによると、2022年2月時点で円はドルに比べ41.74%割安(世界で33位)となっている。その後円安がすすんでいることから、さらに割安率は大きくなっている。

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