【第6章】経済のしくみ ~経済の基本構造

はじめに、第5章のクイズの回答です。

第5章クイズ利率(年利)1%の10年国債を価格100円で購入しました。その5年後、中期金利だけが下落し、債券市場では、5年債の利回りが0.5 %(年利)に下落しましたが、10年債の利回りは1.0%と変化なしとなっています。10回目の利払いを受けた直後(5年経過後)に、この債券を売ろうとした場合の価格として、最も近いものはどれでしょうか?
1. 102.435
2. 100.000
3. 98.512

回答1.の102.435です。
最終利回り=市場利回り=
{表面利率+(100-(市場)価格)÷残存期間(年)}÷(市場)価格×100
に当てはめてみれば、市場価格が算出できます。
しかし、利回りと価格の関係を利用すれば、売ろうとした時の価格はオーバーパーということが分かります。ポイントは、当初10年債を利回り1%で購入していますが、5年後は償還までの残存期間が5年となっています。その時の5年債の利回りが0.5%ですので、手持ちの10年国債(残存5年)の市場利回りは0.5%であり、購入当初より低い利回りとなっています。
すなわち、利回り(金利)が下がれば価格は上がります。利回りが1%から0.5%に下がったわけですから価格は購入価格の100より上がっている(オーバーパーになっている)ことになります。
債券の価格と利回り(金利)の関係をよく覚えておきましょう!

第6章のテーマは「経済のしくみ ~経済の基本構造」です。
経済学の領域で、ややアカデミックな内容を含みますが、現実の経済を考える上での前提となります。ご一読後、頭の片隅に留めておいていただければと思います。

経済とは

資本主義経済の原理

現在の経済のしくみを学ぶ前に、経済の根本的な原理について、少しだけ触れてみたいと思います。

日本は、アメリカやヨーロッパ先進諸国と同じ、資本主義経済の国であるということはご存知かと思います。

資本主義経済において、中心となるのはお金(資本)を持っている資本家です。資本家が、そのお金を使って、人を雇い、工場や設備などに投資し、付加価値のある商品やサービスを生産し、それを市場に供給することにより利益を得ます。その利益を蓄積し、さらにたくさんの人を雇い、新たな投資をすることで、より付加価値ある商品やサービスを市場に供給することで、どんどん富が蓄積し、社会経済が発展していきます。

資本主義経済のもとでは、私有財産が保証され、資本家自身の利益追求の妨げになるような規制がなく自由に取引ができる市場が必要となります(自由主義経済)。また、資本主義経済が持続可能となるためには、多くの競争相手の出現も必須となります。

市場においる競争原理がはたらき、資本家は、常により優れた商品やサービスをより低価格で提供していくことができなければ、おのずと淘汰されることになります(市場主義経済)

そこで、手持ち資金が無くても、能力のあるもの誰でも、市場に参入できるしくみが必要となります。それを具現したものが株式会社という企業体です。この仕組みにおいて従来の資本家は株主となり、能力ある者は、株式会社を起業し、経営を担うことで、より優れた商品・サービスの提供を行えるようになります。

以上、資本主義経済の原理は、自由主義経済と市場主義経済の上に成り立っています。

現代の資本主義経済

日本を含め、近代の欧米西側諸国は、資本主義経済を原理とし経済が成り立っていますが、現実の経済は、山あり谷ありの連続で、そのたびごとに貧富の差が拡大し、特に経済的弱者救済が社会問題として提起されてきました。

経済の持続的な成長と、資本主義経済原理の弊害防止を図るために、政府の役割が重要となります。政府は自由主義、市場主義を原則としながらも、各種規制を導入し、また、自由な市場への介入を実施し、そして、弱者救済のため富の再分配や福祉国家的なしくみを取り入れて、現在の資本主義経済を構築してきました。

以上のように、現在の資本主義経済は、原理的な側面が残りますが、政府の数々の規制によりコントロールされながら、自由主義、市場主義が運営されています。
これは、修正資本主義とも呼ばれています。

経済を構成する3つの主体

家計主体

家計の経済行動パターンを、ある一つの一般的な世帯で考えていきましょう。

会社員の夫、主婦の妻、それと、2人の子供という構成の世帯を例とします。それぞれの経済にかかわる行動パターンを経済学的に翻訳していくと

夫の経済行動パターン

・食品加工メーカー(企業)の商品開発の仕事に従事し、毎月給料収入を得ています。給料から所得税、住民税及び社会保険料等が天引きされています。また、確定拠出年金制度に加入し、株式で運用しています。
・毎月の家族の生活費等を家計費として妻に託し、小遣いをもらい、時々、同僚などと飲みに行きます。
(経済学的に翻訳)
企業体に労働力を提供し、賃金を得、税金を納め、家計費を支え、一部を消費や投資に回します。

妻の経済行動パターン

夫から毎月の給料(手取り分)を受け取り、以下家計のやりくりします。
・日常生活品を近所のスーパーで買い物をしています。買い物には消費税が加算されます。
・住居費、家族のスマホ等の通信費、水道光熱費などを支払っています。
・夫、および、子どもたち、そして自分に対し、毎月お小遣いを渡します。
・将来の子供の教育資金やいざという時のための備えのために、貯蓄や投資を行います。
(経済学的に翻訳)
企業体からモノやサービスを購入(消費)し、付随する税金を支払い、一部を貯蓄や投資に回します。

子どもたちの経済行動パターン

・おこづかいを貯めて、新しいゲームソフトを購入。消費税がかかります。
(経済学的に翻訳)
企業体からモノやサービスを購入(消費)し、付随する税金を支払います。

社会全体の家計の経済行動パターン以上の例から、社会全体の家計の経済行動を以下のパターンにまとめることができます
① 消費
② 投資
③ 労働力の提供
④ 税金の支払い

企業主体

企業の経済行動パターンについて、ある一つの製造・販売会社を例として考え、その行動パターンを経済学的に翻訳してみましょう。

金融・資本市場よりお金を調達し、事業設立・運用資金を調達する

(経済学的に翻訳)
資本金及び事業運転資金の調達

従業員を雇用し、工場や店舗などを構築し、機械・設備等を購入する

(経済学的に翻訳)
労働と資本の活用

市場から生産に必要な原材料等を買い付け、労働力と設備等を利用して、商品・サービスを生産し、消費者に売り上げる

(経済学的に翻訳)
資本と労働力を活用し、生産・販売活動をおこなう

売上げから生産コスト(原材料費や減価償却費等)を差引いた収益を、労働者の賃金や株主への配当金として分配する

(経済学的に翻訳)
収益(生産・販売による付加価値)を、賃金や配当として分配する。

法人税、事業税を支払う

(経済学的に翻訳)
税金の支払い

社会全体の企業の経済行動パターン以上の例から、社会全体の企業の行動を以下のパターンにまとめることができます
① 労働の雇用及び資本の調達
② 労働と資本の活用による商品・サービスの生産・販売活動
③ 生産・販売より発生する収益(付加価値)を賃金や配当として分配
④ 税金の支払い

政府主体

政府の経済行動パターンには、以下が挙げられます

家計や企業から税金を徴収し、それらを財源として、社会資本や公共サービスを提供します

家計から所得税、住民税等、消費税当を、企業から法人税、事業税、消費税等を徴収します。それらの財源を利用し、道路、鉄道、電気、ガス、水道、学校、病院などの公共施設などの、社会インフラを提供します。また、警察、消防、国防、教育、医療などの公共サービスを提供します。

経済を安定させるために必要な政策を実施します
  • 景気低迷時に需要喚起のための財政政策の実施
    ・公共事業の発注、需要促進の補助金交付
    ・減税、各種還付
  • 日本銀行による金融政策の実施
    ・利下げ、量的緩和
社会保障制度や税制を通じて、個人の所得各差の調整や老人、身体障害者、生活貧困者への福祉サービスの提供

所得格差是正のための所得再分配の機能

政府(含む日銀)の経済行動パターン囲み枠3以上の例から、政府(含む日銀)の行動を以下のパターンにまとめることができます
① 社会資本の構築と公共サービスの実施
② 経済安定のための財政・金融政策
③ 所得再配分

 

最後に恒例のクイズです。

第6章クイズ資本主義経済では、自由主義及び市場主義経済体制を土台としています。特に、企業間での自由な競争が、より良い商品やサービスを生み、適正な価格形成を担保することになります。市場が独占や寡占状態に陥ってしまわないように、政府は、独占禁止法を制定し、常時、監視の目を光らせています。
さて、この独占禁止法を所管し、常に監視をしている日本の組織は次のうちどれでしょう

1.証券等監視委員会
2.公正取引委員会
3.国家公安委員会

回答は第7章で!

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