【第8章】経済の状況 ~インフレーションとデフレーション

はじめに、第7章のクイズの回答から始めましょう。

第7章クイズ景気が後退しているとき、世の中の経済の状況として、一般的に、最も起こり難い現象は次のうちどれでしょうか?
1. 債券価格が上がる(金利が下がる)
2. 物価が下がる
3. 株価が上がる

回答3.株価が上がる
景気が後退期に入ると、株式市場の参加者の多くは、一般的に「消費の減少(需要の減少)→生産の減少→企業収益の低下→賃金・配当の減少」という連想がはたらき、株を買いたいと思う気持ちが減退(株価見通しの弱気)します。一方で、既に株を保有している株式市場参加者の中には、利益を確定するためや、あるいは、状況によってはこれ以上の損失を出さない(損切り)ために、売却したいと思う人が増えてきます。
株式市場で、株を買いたいと思う人より、売りたいと思う人が増えれば、株価は下がります。景気後退期には、一般的に株価は下がる圧力がはたらきます。

さて、第8章のテーマはインフレーションデフレーションです。

インフレーション

インフレーション(以下“インフレ”)とは

私たちは、日常生活において、食料品や日用品等のモノを購入し、スマホの通話や通信サービス等の提供をうけるために、対価として一定のお金を支払います。
ひとつの商品やサービスの価格だけではなく、多くの種類の商品やサービスの価格が、同時に継続して上昇する経済全体の状況をインフレと呼びます。

例えば、海流の影響でサンマだけが不漁で、例年なら1匹100円だったものが今年は300円になったとしても、その他の魚や、一般食料品の価格が例年と同じ状況であれば、インフレとは呼びません。
一方、昨年のロシア・ウクライナ戦争の長期化により、世界的に穀物価格や天然ガス・原油価格等のエネルギー価格が上昇し、その影響で、それらを原料とする食料品や化学製品、また、電力等動力源のコスト増加の影響を受け広範にわたる多くの工業製品価格が値上げとなってしまうような状態はインフレと呼べます。

また、別な言い方をすると、全般的なモノ・サービスの価格が上がるということは、それだけお金の価値が下がっているということになります。
すなわち、インフレとは、お金(貨幣)の価値が下がってしまうことを意味します。

インフレの種類

インフレには、その発生原因の違いにより、2つの種類に大別することができます

ディマンド・プル・インフレ

需要(消費・投資・政府支出)サイドの原因でおきるインフレです。
一昨年(2021年)に、欧米先進諸国では、新型コロナウイルスによるパンデミック開けに、急激に消費需要が高まり、それに生産が追い付かないために起こった物価上昇が、ディマンド・プル・インフレと言えます。
パンデミック後、消費需要の回復が急激であった一方、労働市場の需給関係に変化が発生し、失業率が低下し、慢性的な労働力不足が続いているためと言われています。

コスト・プッシュ・インフレ

供給(生産)サイドの原因でおきるインフレです。
原材料や人件費、或はエネルギー価格の上昇により、生産コストが増加し、そのコスト上昇分が製品価格に転嫁されていくと、物価上昇が発生します。
昨年(2022年)突然、勃発したロシア・ウクライナ戦争による、穀物価格やエネルギー価格の上昇に端を発する世界的なインフレは、上述の欧米先進国で発生していたディマンド・プル・インフレを助長するかたちで、コスト・プッシュ・インフレが同時に働き、結果、急激なインフレに発展したものといえます。

デフレーション

デフレーション(以下“デフレ”)とは

ひとつの商品やサービスの価格だけではなく、多くの種類の商品やサービスの価格が、同時に継続して下落する経済全体の状況をデフレと呼びます。
実際に、日本はバブル崩壊後、地価下落や金融機関の信用不安が発生し経済回復が遅れるとともに、中国をはじめアジア諸国の安い労働力と原材料流入の影響も受け、いわゆる価格破壊が発生し、1998~2013年の15年間、デフレ状態が続きました。

一般的なモノ・サービスの価格が下がるということは、それだけお金の価値が上がるということになります。すなわち、デフレとは、お金(貨幣)の価値が上がることを意味しています。

デフレの種類

さまざまな発生原因があげられますが、その主なものとしては以下の3つのタイプのデフレが観測されています。

循環デフレ

設備投資などによって、企業の生産能力が急速に拡大することで、供給(生産)が需要(消費)を超過してしまうときに起こります。
例えば、半導体産業は、設備投資に巨額のお金と時間を要するため、短期的な生産調整が難しく、しばしば、供給過剰のサイクルに陥り半導体価格が下落する場面が起こります。
経済全体への波及効果が高いため、デフレへ進んでしまうことがあります。

資産デフレ

1990年代バブルが崩壊してから後、長期にわたって、日本経済を悩ませた問題です。
株や土地など資産価格の下落が継続する現象です。
例えば、株価が下落すると株式保有者は消費を控えるようになり、景気は悪化し、特に高級品やぜいたく品を中心に価格下落が進み、経済全体がデフレへ進みます。

輸入デフレ

同様に、バブル崩壊後、アジア新興国からの安価で競争力のある製品が流入しました。
さらに、円高も加わり、日本国内市場での価格破壊が発生し、物価が継続的に下落する状況が発生しました。

景気とインフレ・デフレの関係

 

好景気とインフレ

景気が良くなると、消費(需要)が増え、生産者は、それに対応するために、工場の稼働時間を増やしたり、営業時間を増やしたりして生産(供給)を増やします。
それでも生産が追い付かない場合は、雇用を増やし、機械設備を拡充します。
多くの生産者が、こうした行動をとると、いずれ賃金や機械設備導入コストが上昇し、そのコストを製品価格に転嫁する必要がでてきます。
こうして、好景気が続くと、経済全体はインフレへと向かいます。

経済の好循環

「好景気→消費拡大→生産拡大→賃金の上昇→適度なインフレ→消費拡大継続→適正な経済成長の維持」
すなわち、適正な経済成長を生む経済の好循環を持続するためには、適度なインフレ状態を安定的に維持することが必要となってきます。
現実の経済はより複雑で、上述のような経済の好循環が、常に自律的に実現するものではありません。
そこで、必要となってくるのが、政府による財政政策日銀による金融政策です。

不景気とデフレ

不景気になると、消費(需要)は落ち込み、生産者は生産調整をおこない供給を減らそうとします。
また、コストを切り詰め商品価格を値下げし、生き残りを図ろうとします。この過程において、経済活動は減速し、一般的にデフレへと向かいます。
企業収益がさらに悪化し、経済従業員の給料カットや一時帰休、そして解雇へと進むと、家計収入は激減し、消費の落ち込みが加速し、経済はマイナス成長に陥るという悪循環(デフレスパイラル)が起こります。
このような状況がおこると、経済の自立的な回復は難しくなるため、政府による強力な財政政策が必要となってきます。

不況下でのインフレ(スタグフレーション)

上述のように、好景気時にはインフレ不況時にはデフレが一般的に起こりやすい関係ですが、不況下においてインフレが発生することも現実には起こり得ます。
この現象をスタグフレーションと呼びます。
例えば、戦争の勃発等の影響で、世界的にエネルギー・資源不足(供給不足)がおこり、それらの価格が高騰したとします。
エネルギーや資源のほとんどを海外に依存している日本は、それらの輸入が困難となり、経済全体の生産活動が低迷してしまい不況に陥ると同時に、輸入物価急騰によりコスト・プッシュ・インフレを生じます。
こういった状況が継続すると、日本経済はスタグフレーションに陥ることになります。

インフレを計る尺度~消費者物価指数(CPI)

私たち最終消費者が購入するサービスや商品の価格の動きを見るために作成される統計で、インフレを計る尺度の統計です。
総務省が毎月調査・公表する物価指数です。
全国の世帯が購入する財やサービスの価格変動を総合的に測定し、基準点(2015年)の価格を100として指数化したものです。
調査品目が非常に多く、多岐にわたるため生活者の実感に近い物価指数となっています。

以下のグラフは2013年1月~2022年12月までの消費者物価の前年同月比(年率換算)の推移を表したものです。
直近のインフレ率は、急上昇し、年率で4%に接近しています。

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