はじめに
会社の命を受け海外赴任することが決まり、1年以上の長期間、日本を離れることが予定されている場合は、法(住民基本台帳法)の定めにより住民登録をしている自治体へ「海外転出届」を提出し、住民基本台帳から住民票を除票し(抜き)、マイナンバーカードを返却する必要があります。
この手続きにより、以後、非居住者扱いとなり、日本国内に残すお金や資産・負債の管理の面で、様々な制約を受けることになります。
本稿は、「海外赴任者の日本国内のお金の管理(1)」として、非居住者となる海外赴任者の銀行口座、証券口座及び保険契約の扱いがどうなるのか、基本的な事項についてまとめてみました。
実際の取り扱いについては、各銀行、証券会社や保険会社によって、それぞれ異なります。
必ず、出国前に、ご自身の取引する各社のホームページ等で確認し、必要な届け出や、手続きをしておきましょう。
なお、赴任中の日本国内での所得税や住民税、ならびに、住宅ローンや持ち家の賃貸に関する税金関係ついては、「海外赴任者の日本国内のお金の管理 (2)」をご覧ください。
銀行口座について
銀行口座の継続について
長期(1年以上)に海外赴任をする予定で出国する場合、住民票を除票すること必要があり、その時点から非居住者扱いとなります。
本人の海外赴任後も、給料の一部が日本で支給される場合、或いは、ご家族が残留される場合等様々のケースで、どうしても日本国内にご本人の銀行口座を残し、預金の出し入れや、送金、口座振替といった銀行の基本的サービスの提供を受けることが必要となる場合が多いかと思います。
しかし、大手銀行を除き、多くの銀行においては、非居住者となる海外赴任者の口座は解約することを原則としています。
赴任後も日本国内の銀行口座の維持と、基本サービスの提供を必要とする方は、海外赴任が決まったら、まず、口座を保有している銀行に、銀行口座の継続の可否を問い合わせすることが必要です。
もし、銀行口座を保有する銀行に、口座維持を断られた場合、住民票を除票する前に、海外赴任者のための口座サービスを提供している銀行に、新規に口座開設しておく必要があります。
非居住でも口座維持できる銀行
2023年10月現在、以下の銀行(一部掲載)は、非居住者となっても、出国前に所定の手続きをすることで、口座維持及び送金・振替等の基本的サービス提供が可能であるとHPに公表しています。
- 三菱UFJ銀行(グローバルでのインターネットバンキングサービスあり)
- 三井住友銀行(グローバルでのインターネットバンキングサービスあり)
- みずほ銀行(インターネットバンキングで日本国内での送受信のみ可)
- SMBC信託銀行:プレスティア(グローバルでのインターネットバンキングサービスあり)
- りそな銀行(インターネットバンキングは不可、他一部制約有り)
他の銀行でも、非居住者となっても、所定の手続きをとれば、口座を継続し、最低限のサービスを受けることができる可能性がありますので、まずは、個別に問い合わせをしてみることが必要です。
証券口座について
海外赴任者の証券口座の取り扱い
銀行口座と同様に、対応が各証券会社によって異なりますので、個別に各社への照会や確認が必要です。
非居住者になった時点で、証券口座を解約しなければならないのが原則のようです。
その場合、保有資産はすべて売却等で処分しなければなりません。
ただし、最近では、出国前に所定の手続きすることで、以下の通り様々な制約はあるものの、証券口座を維持できる証券会社も増えつつあります。
海外赴任者の証券口座の制約の例
● 特定口座での預かりは不可となり、一般口座へ移管しなくてはならない
● 赴任期間が5年を超える場合は不可。
● 保有商品の種類や取引に制限がある
・日本株式、国債の保護預かりのみ可とするが、海外赴任中の取引は不可
・海外赴任中の新規取引は不可(但し、やむを得ない理由がある場合は売却のみ例外的に可能)
NISAの取り扱いについて
● 2019年度の税制改正により、会社の命を受け海外赴任する社員に限り、出国前に所定の手続きをすることで、非課税口座を継続することが可能となりました。
これに対応できる証券会社も増えています。
● ただし、以下の制約があります。
・最長5年の海外赴任まで継続可です。
・ 出国前に証券会社等に「継続適用届」を提出する必要があります。
・出国中(非居住者である限り)は新規の投資は不可。つみたてNISAは積立停止。
・帰国後が「帰国届出書」を提出することで、再開可能です。
●なお、2024年からスタートする新NISAについては、今のところ詳細は不明ですが、非課税口座の維持が可能となる見込みです。
非居住者の証券口座を維持できる証券会社
2023年10月現在、以下の証券会社は、非居住者となっても、出国前に所定の手続きをすることで、一定の条件、制約のもと口座維持が可能であるとHPに公表しています。
以下の証券会社以外においても、限定的に証券口座を維持できる可能性がございます。必要に応じ、個別に照会してみてください。
- 野村証券
・出国に伴い特定口座は廃止され、特定口座の預り資産は一般口座へ払い出しされます。
・ただし、出国前および帰国時に一定のお手続きを行っていただくことで、帰国後、払い出しされた預り資産を再度、特定口座に組み入れ、売却することが可能。 - 大和証券
・出国時、所定の手続きが必要です。
・転出中は、やむを得ず預り資産の売却を行う場合を除き、新規の取引等は一切できません。
・また、租税条約対応、納税処理対応等については特別なサービスの提供はできません。 - SMBC日興証券
・日本国内の居住者ではなくなる場合は、原則として、証券口座の解約をお願いしています。
・ただし、所定の手続きを行っていただき、当社が承認した場合は、制限の範囲内で口座継続が可能です。 - みずほ証券
・出国中は一般NISA口座において新たな買付ができません。
・給与等の支払をするものからの転任の命令等のやむを得ない理由により、出国をして非居住者となる場合には、出国をする日の前日までに「非課税口座継続適用届出書」を提出いただくことで、一般NISA口座にお預けになっている上場株式等について、出国後も引き続き非課税の適用を受けることができます。 - SBI証券
・「非居住者」となる間、預かり可能な商品は、原則として日本株式および日本国債に限定されます。
・「非居住者」となり、海外からインターネットによる取引を継続した場合には、SBI証券が日本における金融商品取引業等に相当するライセンスを海外の金融規制当局・監督官庁等から得ていないことにより、お客さまの居住地国での規制に抵触する可能性があります。 - 楽天証券
・日本株式、個人向け国債のみ保有可能です。その場合、お客様にて常任代理人を選任してください。
・継続利用できる口座は総合口座、特定口座、一般NISAとなります。(ジュニアNISAはご利用いただけません)
・その場合、出国理由が海外転勤によるもの、または、海外転勤される方に帯同する配偶者である場合に限ります。
生命保険契約について
海外赴任者(非居住者)も、出国時に所定の届け出をしておけば、出国中に保険料を払い込むことによって、生命保険を有効に継続することができます。
海外で死亡した場合のほか、一般的には病気やケガで入院したような場合についても、保険金や給付金を請求することができます。
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