<基礎>【相続-5】遺言について知る

なぜ遺言が必要か?

遺言者の意思表示

自分が生涯をかけて築き、そして、守ってきた大切な財産を、自分が死んだ後も自分の意思に沿い有意義に活用されるように、生前に自分の意思を明確にしておくための手段として遺言は必要不可欠なものです。

相続をめぐる親族間の争いの防止

相続をめぐり、親族間で争いの起こることが少なくありません。仲の良かった者どうしが、相続をめぐって醜い争いを起こすことは悲しいことです。
遺言は、このような悲劇を防止するため、遺言者自らが自分の残した財産の帰属を決め、相続をめぐる争いを防止しようとする目的があります。

相続手続きをスムーズに行う

遺言がない場合、民法が定める相続分に従い遺産を分けることになります。これを法定相続と呼びます。
民法は、例えば、「子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする」というように、抽象的に相続分の割合を定めているだけなので、遺産の帰属を具体的に決めるためには、相続人全員遺産分割の協議をする必要があります。
協議をまとめるのは必ずしも容易なことではありません。協議がまとまらない場合には、家庭裁判所調停または審判で解決してもらうことになります。

(参考)法定相続についての詳細は以下をご参照下さい
マネーナレッジBK/遺産相続/【相続-3】法定相続人
マネーナレッジBK/遺産相続/【相続-4】財産の取り分(法定相続分)

遺言による公平な遺産相続の実現

法定相続に関する規定は、一般的な家族関係を想定して設けられています。
これをそれぞれの具体的な家族関係に当てはめると、相続人間の実質的な公平が図れないという場合が多くあります。
例えば、遺言者とともに家業を助け、苦労や困難を共にして頑張ってきた子(家産の維持・増加に努めた子)と、そうではなく余り家に寄り付かない子とでは、それなりの差を設けないと、かえって不公平ということにもなります。
法定相続でも、寄与分の制度はありますが、寄与分が認められるための手続が煩雑である上、裁判所がこれを認めるプロセスが必要になります。
遺言者が、その家族状況に合った相続の仕方を遺言できちんと決めておくことは、後に残された者にとって必要で有難いことなのです。

遺言の必要性が高い事例

夫婦の間に子供がいない場合

被相続人の両親がすでに亡くなっている場合、兄弟に1/4が割当てされます。
長年寄り添った配偶者に全財産を残したい場合は、遺言が必要です。

再婚をし、先妻の子と後妻がいる場合

先妻の子後妻との間では、血縁関係がなく感情的になりやすいので、遺産争いが起こる確率が高くなるといえます。
争いの発生を防ぐため、遺言の必要性が高いといえます。

長男の嫁に財産を分けてやりたい場合

長男の死亡後、その妻が亡夫の親の世話をしてくれているような場合には、亡長男の妻にも財産を残してあげたいと思う場合があります。
亡長男の妻は相続人ではありませんので、遺言による遺贈が必要となります。

内縁の妻の場合

長年、夫婦として連れ添ってきても、婚姻届を出していない場合には、いわゆる内縁の夫婦となり、内縁の妻には相続権がありません
内縁の妻に財産を残すためには、遺言による遺贈が必要となります。

家業等を継続させたい場合

個人で事業を経営している場合は、複数の相続人に分割してしまうと、経営の基盤を失い、事業等の継続が困難となります。
特定の者に承継させたい場合には、家業の維持に必要な資産を事業承継者に相続させ、他の相続人との間では代償金で公平を図るなど、きちんとその旨の遺言をしておく必要があります。

家族関係に応じた適切な財産承継をさせたい場合

遺言者のそれぞれの家族関係の状況に応じて、財産承継をさせたい場合には、遺言をしておく必要があります。

  • 特定の財産を特定の相続人に承継させたいとき(例えば、不動産)
  • 身体に障害のある子に多く相続させたいとき
  • 老後の面倒を見てくれた子に多く相続させたいとき
  • かわいい孫に財産を残したいとき

遺言者のそれぞれの家族関係の状況に応じて、財産承継をさせたい場合には、遺言をしておく必要があります。

相続人が全くいない場合

相続人がいない場合には、遺産は国庫に帰属します。
特別世話になった人にお礼として財産を譲りたい場合や、お寺や教会、社会福祉関係の団体、自然保護団体、または、各種の研究機関等に寄付したいときなどは、その旨の遺言をしておく必要があります。

遺言書の作成について

遺言書の種類

遺言書には、次の3種類があります。
① 自筆証書遺言
② 公正証書遺言
③ 秘密証書遺言

これらは、正しく作成していれば、どれも法的に有効となります。
それぞれ、形式、手続き等について、短所・長所がありますので、作成にあたっては、作成のタイミング、遺産の種類、相続人の状況や、遺言によって自身が最も重視する事項等によって、最も適切な種類を選択することが可能です。

3種類の遺言書の特徴を比較

(注1)家庭裁判所での検認
遺言書の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,その「検認」を請求しなければなりません。ただし、公正証書である遺言、及び、法務局において保管されている自筆証書遺言に関して交付される「遺言書情報証明書」は、検認の必要はありません。
「検認」とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして,遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。

(注2)自筆証書遺言保管制度
作成された自筆証書遺言書を、法務局において適正に管理・保管することができる制度です。遺言書の紛失・亡失の恐れがなく、相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざん等を防ぐことができます。
また、遺言書の保管申請時には、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて,遺言書保管官の外形的なチェックが受けられます。
さらに、相続開始の際、家庭裁判所における遺言の検認が不要になります。
なお、手数料等は一切かかりません。

遺言書作成のポイント

どの種類の遺言書を選択したらよいか?

最もポプラ―な選択は、自筆証書遺言で作成し、法務局の保管制度を利用する方法です。
いつでも作成でき、原則、費用が掛からない点が魅力といえます。
但し、遺産内容や相続関係が複雑であり、記載内容に不安がある場合は、専門家に依頼し、公正証書にしておけば安心でしょう。
また、自分が生きている間には、どうしても相続関係者等に知られたくない事情がある場合は、秘密証書遺言を選択することもあるでしょう。
それぞれ、メリット・ディメリットがあるので、自分の置かれた状況に応じて選択すべきことでしょう。

遺言書はいつ作成したらよいか?

遺言は、死期が近づいてからと思っている方がいますが、人は、いつ何時、何があるかも分かりません。
いつ何があっても、残された家族が困らないように配慮し、自分が元気で判断力があるうちに、遺言書を作成しておくことが望ましいといえます。
因みに、遺言書は、作成した時が15歳以上であれば、有効な証書として扱われます。

遺言の取消しや変更

遺言は、人の最終意思を保護しようという制度です。
取消し(撤回)や変更は、いつでも、また、何回でもできます。
ただし、公証人証書遺言秘密証書遺言は、変更の都度、費用が掛かりますし、手続きが面倒です。
遺言書は、なるべく若いうち作成しておくことが望まれますが、まだ財産が確定していない時期に作成すると、その後変更する必要がでてきます。
まずは自筆証書遺言を作成しておき、死期が近づいてきてから、必要に応じ、公正証書遺言に切り替えていくことが合理的と言えます。

以  上

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